約 2,183,261 件
https://w.atwiki.jp/rpgrowa/pages/406.html
錆びた鎖に翼絡め取られても、繋いだ手を離さない◆wqJoVoH16Y 魔王オディオによって作られし死の島…… このゲーム巣食わんと、憎悪さえ奪った伐剣王ジョウイが、オディオの座を狙って最終戦争を開始した! その尖兵となりしは、島の憎悪を注がれた骸と、何一つその身に残せなかった砂漠の王城。 しかし、嘆きと未練のままに全てを破壊せんとする哀しき魔城の前に、敢然と立ちふさがるヒーローがいた!! 今は昔のバビロニア、 そして、新生したブリキ大王を駆る日暮里のヒーロー、男・田所晃ッ! これは、己が全てをかけて戦う、ヒーロー達の物語であるッ!! 太陽が天頂より降り始めた空の下、朽ちし巨神の遺志を継いで光り輝く幻想希神<ファンタズム・ブリキング>、 繰り手たるアキラはその19mもある体躯の目線にて世界を見渡した。 本来のブリキ大王ならばコックピット越しに見るべきヴィジョンは、アキラの瞳に直接刻まれた。 それだけではない。 天を衝く鋼のこぶしの感触が、大地を踏みしめし両足の感触が、その装甲を撫でる西風の感触が、アキラには自分のように感じられた。 否、それこそが真実。これはバビロニアの機械魔神にして機械魔神にあらず。 アキラの想いがミーディアムの欠片とブリキ大王の祈りを通じ、チカラというカタチをとったもの。 その存在の輝きを以て、見るものの心に『灯火』宿す『希望』の体現――――『ヒーロー』そのもの。 故にアキラと『ヒーロー』の個我境界は限りなく零であり、この巨神こそがアキラなのだ。 ヒーローと化した今だからこそ分かる。 この島全てが今、悲鳴を上げていることが。 傷痕が痛いのだ、爛れて苦しいのだと。もがき苦しみ、悪念を叫び、狂い始めている。 物言わぬ嘆きは模倣する憎悪を得て狂気となり、その狂気のまま、彼らはこの大地の中心に集い始めている。 ことりと落とされた角砂糖に群がる蟻のように、砂漠の中で唯一のオアシスを見つけた者たちのように。 唯一の『希望』めいたおぞましいものに集まっていく。 砂浜が崩れ、崖はボロボロと岩を海に落とし、町並みは風化し、森の木々は枯れ始めている。 災厄の戦いなどで抉られた場所だけではなく、まだ形を保っている場所も崩れてゆく。 (待っててくれてありがとよ、ブリキ大王。ギリギリまで粘ってくれたんだろ) 潮が満ちるように、島の外側からその身を崩しながらイノチが集まってゆく。 砕けた骸に、朽ちた亡城に注がれてゆく。まるで、誰かが“奪っている”ように。 もし、アキラがあの浜までブリキ大王に出会わなければ……あの雄姿さえも“奪われていた”のだろう。 (それが、希望だなんて……楽園だなんて、反吐がでらあッ!!) はっきり言って、アキラにはジョウイの理想なんてこれっぽっちも理解できない。 学がないだとか、先見がないだとか言われればああそうだと首肯しよう。 だが、そんな奴にだって分かることがある。 これは絶対に許してはならないということなのだ。 形はどうであれ、それが誰かの笑顔を踏みにじって作る世界であるならば、 それは陸軍とシンデルマン博士がやろうとした理想郷<全人類液体人間化>と何一つ変わらない。 「そのためだったら……男アキラ、無理を通してみせるッ!」 城がその輝きを押し潰さんと再び迫る。破損した駆動部から蒸気の血と軋む歯車の悲鳴を上げながら。 故にアキラは拳を握る。その身を以て魔王の楽園を否定するために。 その冥き希望に魅せられ、囚われてしまったあの城(もの)たちを解き放つために。 加速からの、残された右回廊が亡城から射出される。 故障というステータス異常を無視した一撃は、この状況に置いても最速の攻撃となった。 だが、それをアキラは避ける。その眼で、風切る拳を鋼の肌で感じながら、 人間のような滑らかさで、巨体同士の戦いとは思えぬ紙一重で見事に避けきった。 「先ずは挨拶代わりだッ!!」 そのまま流れるように、左腕を城の側面にアッパーを繰り出す。 王城はその破損した地下潜行機能の残骸を駆動させ、緊急的に沈み込むことでその腕を かろうじて避けた。そう見えた。 だが、拳が空を切るその瞬間、その左腕に刃の煌めきが輝く。 「“我斗輪愚”ゥゥゥゥゥゥ―――― 一本義ィッ!!」 幻想希神・機巧ノ壱――左腕に内蔵されたブレードが亡城の煉瓦の隙間を切り裂く。 ぶじゅりと、煤混じりの黒い蒸気を吹き出しながら、城は――或いは、その向こうにいる魔王は――驚愕するように震えた。 “ブリキ大王の情報はあった”。だが、このような機構は存在しないはずだ。 「終わるかああああああッ!!」 アキラはアッパーの推力を生かし跳躍する。その様は、もはや機械の駆動というよりというより人間の武技だ。 だが、我唯人に非ずというように、脚部に強烈なエネルギーが集い、 アキラは自身と城を結ぶ線を軸として敵を穿つ螺旋となって城の外壁を削り、 着地の衝撃を脚部から背を通じて腕部へ導通させ、刃の威力へと転じて薙払う。 幻想希神・機巧ノ弐と参――螺旋状に束ねたエネルギーを纏いての急降下攻撃と巨大ブレードによる薙払いが、 本来前進しか出来ぬ亡城を、無理矢理に退かせる。 「メタル、ヒィィィィィィィットゥッッ!!!!」 その開いた間合いの中で、十分に加速する距離を得たアキラの右拳が、亡城の正面城壁を打つ。 亡城は衝撃に揺れながら、ようやく収納した右回廊を構えるが、アキラは既に軽やかに距離をとっていた。距離が離れ、亡城の正面に出来た拳大の大穴が陽光に晒された。 戦術プログラムを遙かに越えた、流れるような連続技からの右ストレート直撃。 自壊はあっても、竜の攻撃でも魔砲によっても削れども破れなかった城壁が初めて貫かれた瞬間であった。 心臓にぽっかり空いた虚空を晒すように棒立つ亡城に、感情を定義するのであれば2つ。 ありえない。ありえない。この城壁が徹されるなどありえない。 この鋼の躯<ハードボディ>を唯の刃、唯の拳、唯の物理攻撃が害するなどありえないのだ。 「わかんねーのかよ」 その心を見透かすかのように、目の前の希神は左拳を天に翳す。 「わかんねーよな。本当に守らなきゃいけないもんが、わかってねーんだからよ」 その様に、亡城のもう一つの感情が膨れ上がる。 許さない。許さない。この身を、この躯の内側を害したな。 彼らが帰るべき場所を、安息するべきだった、そうあるはずだった場所を、害したな。 守るべきもの? それを守れなかったからこそ、この骸はここにいるというのに! 「それが分かってねえってんだよ――――――“我斗輪愚”・日暮里ィィィィッ!!」 希神に輝きに満ちる。超能力と似て非なる意志の力――フォースが充填され、アキラの、希神の左腕がその機構を変化させていく。 「お前が守りたかったのは、その誰もいない城かッ!?」 五指は収納され、手首は太くなり、そこから出たのは雄々しき勇者の螺旋。 螺旋は動き始め、瞬く間にその溝も見えぬほどの高速で回転し始める。 「違うだろうがッ!! なんもない、空っぽの夢を追いかけて…… ボロボロになって、それでも戦って、朽ち果てて、それで笑える訳、ねえだろがッ!!」 怒声とともに、夢を形に変えし幻想希神・機巧ノ肆――有線式螺穿腕が発射される。 次は徹さぬと、城は収納した右回廊を楯として己が躯を、誰もいない城内を守る。 「オラァッ!」 だが、腕に食い込んだ螺旋より繋がるそのワイヤーが逆巻き、亡城をアキラまでぐいと引っ張り上げる。 「辛かっただろうさ、苦しかっただろうさ。てめえらも、ヒーローがいなかったんだろ。 だけど、それに負けちまったら……誰かの守りたいものを奪うようになったら…… 英雄の敵に……“魔”になっちまうんだよッ!」 どれほど自分を傷つけても充たされることなく、永遠に喘ぎ続ける虜囚。 そんな怪物に墜ちてしまった城を引き寄せ、アキラは両足に力を込める。 「だから、俺が祓ってやるッ!!」 今のアキラは、脳の全てをこの希神の具現に費やしている。 イメージはおろか、心を読むことさえもままならない今、彼らの持つ未練に触れることさえ出来ない。 だが、繰り出された機巧ノ伍――刃の如き踵落としと続けて穿たれた宙返蹴り上げは確かに亡城に確かな傷を与えていた。 「最後まで、魔に、憎悪に抗い続けたアイツのように」 この希神は、アキラの抱く夢の形。アキラがこうありたいと希うヒーローの顕現。 この世の憎悪全てを凝縮した狂皇子に立ち向かうように、 己の脳の領域全てで呼び起こした希神は、どこまでもアキラの祈りに忠実だった。 「最後の最後には、温かいものを掴めた、アイツのように」 宙返りの体勢から、再び脚部を城に向ける。だが、今度は両足ではなく片足で、回転などしない。 其は偉大なるバビロニアの一撃。古代より現代を貫きし、神の一撃。 「バベルノン・キィィィィィィィッックゥゥゥッッ!!」 雷のように落ちた神撃は、僅かに逸れて左の城壁のほとんどを破壊する。 アキラの抱くヒーローに確かな形を持たせた紅き英雄。 そのイメージが、希神のつま先から王冠までを紅く充たしている。 モンスターを刈る為の人間暗器に過ぎなかった機巧は、ブラウン管越しに焼き付いた憧憬となって真なるイメージを宿した。 故にその武装、その一挙手一投足全てが、凶祓いの属性を備えているのだ。 ならば新たなる魔王の導きにて『魔』に墜ちた亡城を相手どれば如何なるか。 その答えこそがこの光景――攻撃全てが特効<クリティカル>となるッ!! 最悪の相性の敵を前に、魔城はかつてないほどの損傷を刻まれていた。 それを窮地と見るや、死兵どもは希神に殺到する。リッチのような飛行可能なものたちは希神の周囲へ、グールや亡霊兵などは希神の足下へ殺到する。 だが、希望を漲らせたアキラにとってはもはやものの数ではない。 「手前らもだッ!!――――――“我斗輪愚”・三宮ッ!!」 再びドリルと化した左腕を上方に突き上げると、 機巧ノ陸――その回転が生んだ風が錐揉みのように旋風となって、周囲の兵どもを花びらのように巻き込んでゆく。 「あんたらの『魔』を、『邪悪』を、『穢れ』を『呪い』を『厄』を『禍』をッ!」 希神の纏うフォースが、真紅にまで輝いたとき、その胸に赤い光が収束する。 この技は、アキラが見たことのない機構だ。だが、アキラの心臓は識っている。 希望のかけらを生んだ一人の男、紅の英雄の半身たる男の想い出が、欠けた機構を十全に駆動させる。 渦に巻かれた屍たちが、渦の中心に集まっていく。 そこに向けられる光は、炎の集合体。だがそれは災厄の焔に非ず。 アキラがその目に焼き付けた炎。全ての魔を焼き祓い清める、浄化の炎。 「全部纏めて、祓ってやらああああああああ!!!!!!」 機巧ノ漆――胸部極熱収束砲が放たれ、旋風を炎の嵐に変えながら、一直線に突き進んでいく。 さらにだめ押しとばかりに、藤兵衛印のジョムジョム弾を各部から射出。 渦の外側を爆破していき、幸運にも渦から飛び出ようとしたものたちを撃破していく。 その魂、天へ届けと手を伸ばすように、赤線が空へと突き抜けた。 「何度でもいってやるッ! これが、本当の希望<ヒーロー>だッ!!」 その強さ、一機当千。偽りの希望なんとする。 幻想希神・ファンタズムブリキング――――此処に有りッ!! 「これが、とっておきたいとっておき、って奴か……?」 天を駆ける炎嵐を見つめながら、ストレイボウは呆然としていた。 アキラにあんな隠し玉があると思っていなかった、という思いも無論あるが、 なによりも、真っ向から闇に立ち向かい、祓っていく輝く機械神の偉容に圧倒されていた。 揺らめく天秤を弄んでいたところに、極大の重石を載せられたような感覚だった。 「俺の時に出していなかったということは、アキラも自覚はないのだろう。 全く、見せ場というものを心得ている奴だな」 口にくわえた半紙で天空の剣に付いた腐肉を拭い落としながら、カエルは皮肉気味に答えた。 ストレイボウと胸中は同様だった。自分の中のあらゆる葛藤が白日に曝され、断罪されていくようだ。 許せぬものは許せぬ。悪いものは悪い。正しいものは正しい。 魔を問答無用で祓い続ける希神は、その善性の体現だ。 もしも、あの神をもっと早く見つめていたのならば、自分の人生の右往左往の半分は省けたかもしれない、と思う。 「なんにせよ、これで形勢は逆転したか」 そんな妄想を振り落とし、カエルは現状を見つめた。 アキラの想いを核にコンバインされた希神の登場によって戦局は大きく反転した。 ほとんどの兵があの巨大な希神に注力しており、こちらへの攻め手は牽制以下のものになっている。 そのおかげでストレイボウとカエルは合流し、一呼吸を置くことができた。 「しかし、いきなりすぎて考える暇もなかったが……あの兵士たちは一体……?」 「兵隊どもは地下の遺跡で見た覚えがある。おそらく遺跡に転がった骸に魔力を与えて動かしたのだろう。ビネガーでもあるまいに」 「……確かに、あの亡霊騎士たちのように全て魔力で実体化させるより効率はいい。 だが、それにしても50も動かすなんて……」 魔術師の見地からジョウイが行った外法にあたりをつけるが、ストレイボウはそれでも驚愕を隠せない。 だが、カエルはその認識の過ちを正す。 「その数は適切ではないな。奴はおそらくこの島全てを掌握しているはずだ。 歩兵が百万人が固まって俺たちに向かって行軍している姿を想像しろ。今見えている50は、その先端だ」 紅の暴君を通じて、この島に流れる憎悪に触れたカエルだからこそ理解できる。 ここまでの戦いを通じて蓄積され、共界線を通じて島の中枢に集う怨念ども。 ジョウイが掌握しているのがアレならば、ジョウイの兵力とはこの島全てに等しい。 それが一歩ずつ確実に進軍し、この戦場に送られ、最前線の兵が死ぬ度にそれを踏み越えて次列が蘇っているのだ。 「そんな魔力、一体どこから……」 砕けた骨が接がれ、散った腐肉が再び集って兵を構築していく光景を見て、ストレイボウは顔をしかめる。 憎悪する亡霊たち、届かなかった叫びは傷つけられたこの島のものだとしても、 それをに形を与え蘇らせているのはジョウイだ。都合6人で100、200は確実に破壊し、そして蘇っていた。 「……奴は、絶望の鎌を持っていたな」 今はもうない右手を見つめながらカエルはつぶやく。 「ああ、だがアレは仲間の死と引き替えに力を……真逆」 「“味方が死せる瞬間に力が手に入る訳だ”。どうやって武具から魔力を引き出しているかはわからんが……最悪だな」 ジョウイが鎌を振りかざし亡者を指揮する姿を思い浮かべ、カエルは蠅を食らったような顔をした。 刃を失った絶望の鎌の行き場のない力を軍勢の維持に利用しているのだろう。 死して得た力が、屍を動かして死を作る。背負われた死が、ジョウイの誓いを、魔法をより強固にする。 アキラをして歪んだ輪廻といわしめたこの光景の一翼を、魔王の冥力が担っている事実はカエルにとって、業腹以外のなにものでもない。 もしも本気で全滅させるならば、この島全てを滅ぼすしかないだろう。 (もっとも、俺の考えが正しければ、亡霊が亡ぶ度に死ぬほどの苦痛を味わっているはずだが……とてもではないが、正気とは思えん) 紅の暴君と厄災の焔に乗っ取られたカエルだからこそ、ジョウイの行動に空恐ろしさを覚える。 カエルが紅の暴君の交感能力を生かして戦っていた時、大地が傷つけられただけで自分の身が斬られた痛みを覚えた。 それを支配能力にまで引き上げたとすれば、今ジョウイが受けている苦痛が如何ほどか。 それを僅かなりとも想像できるカエルは、覆面の中で舌を巻くしかなかった。 「……だが、いくら何でも50もの屍を暴走させるならともかく、 兵隊として統率するなんて……そうか、だからあのモルフと城が必要なのか。 やつらは指令の中継局であり、本陣までの兵站路を兼ねている」 カエルの経験談を聞き、ストレイボウは魔術師と技師特有の論理的思考を以て、この軍勢の輪郭をつかむ。 50体以上の屍をジョウイが直接操作すれば、操作がもつれて必ず破綻する。 それを回避するためジョウイは部隊長となる存在を置き、 そこを経由させて『部隊ごとへの命令』を行うことで、制御を簡素としているのだ。 加えて、これならば亡霊復活のための魔力供給の効率もよくなる。 途中で増員されたフォビアたちは、そのサポートのためだろう。 命令系統と補給路の確立。まさしく軍人の発想だった。 此処まで見せてこなかったジョウイの裏の顔を想像すると同時に、 ストレイボウは否応なく思い知らされてしまう。今行われているのが、戦闘ではなく戦争だということを。 そして、そうしてでも理想を叶えようとしているジョウイの覚悟を。 だが、そんな機略は質量差の前には無意味とばかりに、希神はフォースチャージを完了させて駆動し始める。 依代の屍に大きく損傷を受けた亡霊たちの蘇生は完了しておらず、希神の拳を妨げるものはなにもない。 「それならば話は早い。頭を潰せば、兵隊どもは蘇生出来ん。 アキラがあの城を潰せば、少なくともこの戦場は終わる……のはずだが、浮かない顔だな、ストレイボウ」 「……1つは、ただの感傷だ」 決着を見つめるカエルからの問いに、ストレイボウはゆっくりと答える。 現れた闇を、勝負の場にすら立てず烙印を押された敗者たちを、ヒーローのより強大なる正義の光で焼き祓う。 この光景を見下ろしてオルステッドはどう思っているのか。 これこそが、オルステッドのいう勝者と敗者の構造と何も変わらないのではないか。 しかし、この光が正しくない訳がない。この光は正真正銘、真実だ。 ならば、誰が間違っているのか。何が間違っているのか。 本来あの光に焼かれるべきストレイボウは、迷わずにはいられない。 「……もう一つは、ジョウイだ」 そして、あの魔城を率いる魔王のこと。 音に聞こえしルカ=ブライトならば、この段階であの魔城を使えぬと切って捨てるだろう。 だが、敗者を想い過ぎるあの少年が、この状況を看過するとは思えなかった。 「アイツは、ジャスティーンの存在を知っているはずだ。 だったら、あの城を引っ張ってくれば貴種守護獣との勝負になることは分かっていたはず。 いや、最初から織り込み済みだろう。だったら……」 ジャスティーンはあの亡きオスティア候の骸が全てを賭けて得た情報。 それを識るジョウイが、誰も見捨てないあの魔王が、ここで手を差し伸べない道理がない。 違和感の核を掴んだストレイボウは、ここまで気配を見せていなかったもう一体の部隊長……反逆の死徒を見た。 希神の攻撃に反応できるほどの距離をあけ、希神が城に迫り来る姿を見つめ続けている。 まるでタイミングを計るかのように。 ――サポート能力発動ッ! 直接火力支援ッ!!―― 希神の拳が構えられた瞬間、綺羅星のような蒼光が、青空の向こうに光った。 それにストレイボウとカエルが気づいて見上げた空は、真っ二つに割れていた。 そう表現するよりなかった。真白い光の束が、空の果てから希神に降り注ぐ。 「さ」 遙かな高みから混沌とした下界に秩序を示す、神の杖のように。 「衛星攻撃<サテライト>だとォォォォッ!?」 未来世界でも実用段階とはいえぬ、超々高度からの砲撃に、ストレイボウは愕然とする。 ギリギリでその一撃に気づいたのか、希神は振り上げた拳を退き、胸を反らせて上空へハロゲンレーザーを発射する。 天地の狭間で衝突した2つの輝きは、太陽の光さえもかき消す。 全力と全力の砲撃は五分。 だが、絶妙なタイミングで攻めの枕を崩され反応を遅滞させた分、アキラは不利な体勢で踏ん張るしかなかった。 そして、空からの光束が細くなって安堵した瞬間を、弱者が狙わない道理はなかった。 かろうじて体勢を整えた魔城が、機構を振り絞って右拳を構える。 噴煙は黒く噴き出し、油は血のように爛れ落ちている。 撃てば自壊もやむなしの一撃。だが、魔城には自らが砕け散ることへの怖れなど微塵もない。 あるのは、目の前の光に対する怒り、嘆き、嫉妬。 抱くことかなわなかった光を惜しげもなく晒し、 あまつさえ幸せの有無を問う巨神に、それ以外の何を想えというのか。 彼らは“幸せになれなかった”者たち。“もうやり直せない”者たち。 そうであることすら誰にも知られることなく、餓えて枯れて朽ちていく者たち。 ただ一つ与えられた“導き”に縋り、忘れられた滅びに意味を求めた者たち。 確かに彼らは『魔』だ。憎悪にまみれ、化外に墜ちた存在だ。 だがその祈りさえも『魔』と否定するのか。 弱さを悪と貶め、持たざるを罪と弾劾し、その光で裁こうというのか。 その判決に対する反逆を載せた回廊が、発射される。 ついに深刻な域に達した破損のせいで速度は鈍り、威力は十全にならないだろう。 それでも、振り上げられた拳は収まらない。 失ったものを背負い進む城に、歌が響く。 なげかないで。 いらないものなんてないよ。 おちこぼれなんていないよ。 げんきをだそう。 それは、地より響く歌。己の弱さを嘆き、それでも前を向いた少女の歌<イノリ>。 故にその歌は、持たざる者にどこまでも染み入り、神秘のチカラとなる。 毒のように甘い魔女の呪い<イノリ>は、敗者であればあるほどにチカラに変わる。 この城に向けてドリルとは片腹痛い。 いいだろう。ならば刮目しろ。 もう続かない歴史をその身に刻め。 射出された右回廊が音を鳴らして蠢く。 オディオによって参加者が使用できぬようバラバラにされた『商品』が、壁や機関に組み込まれてゆく。 だいじょうぶ。魔法はなんでもできるチカラ。 だいじょうぶ。あなただけの魔法をしんじて。 だいじょうぶ。どんなときだって、あなたは、ひとりじゃない。 だから――――へいき、へっちゃら。 先ほどのドリルへの返礼とばかりに、回廊が先鋭化し、けたたましく回転する。 希神ドリルとは真逆の回転を成すドリルが、希神の脇腹を無慈悲に蹂躙する。 そんなに自慢するならその光を寄越せとあざ笑うように、振動とともに輝きが廃油に解け合い、魔城へと吸われていく。 これが本物のドリル――――機械大国フィガロの、技術の総算也ッ!! ストレイボウたちは絶句したまま、希神の脇腹に大穴が開く瞬間を見ていた。 上空からの射撃が止まったことでアキラはとっさに距離を取り追撃を回避することには成功した。 しかし、希神の輝きを吸って城塞の機構を復旧する魔城は、息吹を得たりと歯車と蒸気の音をけたたましく鳴らす。 全快とは世辞にも言えないが、最低限の機構を取り戻した魔城は退くことなく右の回廊を回して希神へと果敢に攻める。 だが、迎え撃つべく精神力をさらに注いでボディを復元したアキラの拳は先ほどに比べ僅かに鈍っていた。 「無理もない。あの魔城、突撃こそすれど拳は残していやがる。 こちらの大技にカウンターで差し違えるつもりだ」 カエルは苦々しげに唸る。人間並みの精度と駆動で動く希神相手では 魔城のドリルなどあたりはしない、アキラの拳が魔城に届く瞬間以外には。 故に、魔城は己が軍勢の吸収能力だけを頼りに、差し違えようとしている。 それが分かっているからこそ、アキラは反撃を回避できるよう余力を残した攻撃しか出来ない。 「それに、あの戦場外からの砲撃――――あれを見せつけられたら、もうアキラは動けない。封殺だ」 ストレイボウがつぶやく。希神がその威勢を鈍らせた最大の理由――それはあの戦場外からの砲撃支援に他ならない。 大気圏外から撃たれたあの一射。もしもアキラが全力のハロゲンレーザーで相殺していなければ、 この戦場の相当な領域が何度目かの焦土になっていただろう。 そして、希神と一つになっていないアキラ以外の者たちがどうなっていたことか。 何発撃てるのか、制限はあるのか、再射撃に何分かかるのか。最悪、もう二度と来ない砲撃かもしれない。 しかしその確証もない以上、アキラは常にあの射撃を警戒し続けなければならないのだ。 「折角の反撃の機会をこんな形で潰されるなんて、あの砲撃さえなければ……」 「いや、むしろ厄介なのは――――ッ!!」 カエルが何かを言おうとした矢先、怨嗟を轟かせながら蘇った亡霊たちが突貫してくる。 依代となった遺体さえも損傷しているが、それを補うかのように鬼気を迫らせている。 「カエルッ!!」 「ちぃッ、合わせろよッ!!」 目配せもせずに、カエルとストレイボウはそれぞれに魔法を展開した。 カエルは印を組んだのち、口の中に発生させたウォータガをぴゅうと亡霊たちの前列に吹き付ける。 そこで進軍が止まった瞬間を見逃さず、ストレイボウが魔術をふるうと、 カエルのウォータガが、兵ごと凍り付き、巨大な氷壁を成した。 既に突撃の勢いの付いていた兵たちは止まることもかなわず、壁にぶつかり、 後ろからさらにぶつかった兵によって潰れてゆく。 「間一髪か」 「でも、なんでいきなり……しかも、さっきまで投石をしていた奴らまで」 「今だからこそ、だ。兵と俺たちを混交させることで、実質的にアキラからの広域攻撃を封じてやがる。 しかしこれで確信した。この差配は、明らかに現場の指示だ……あの小物、もしやそこそこ優秀だったのか?」 潰れてもなお壁を破らんとばかりに襲いかかる兵たちは、先ほどまでの倍以上に膨れ上がっていた。 投石を行っていたものたちも、魔城の随員だった兵も全てがこちらに投入されている。 ストレイボウたちは破れそうな壁に魔力を注いで繕いながら、その差配をしたであろう反逆の死徒を睨みつけた。 その視線すら心地いいのか、卑猥な嘲笑を浮かべながら敗者は口の下の瞳をぐるぐると回していた。 「どうみる、ストレイボウ」 「……控えめに言って最悪、としかいいようがないな」 ストレイボウは冷や汗を浮かべながら応じた。 頼みのブリキ大王は敵の連携網に絡め取られて拘束された。 敵の軍勢はこちらに集中し、水際での防戦一方。 しかも、兵たちをいくら倒しても島全てが兵力たるジョウイには致命傷になり得ない。 このままでは泥沼に嵌まり続けることになる。 抜け出すためにはこちらの体勢を整えなければならないが、こちらの体勢はガタガタに崩されてしまっている。 ストレイボウはちらりと後ろを向いた。その視線は、カエルたちの後ろで呆としている2人へと向いていた。 イスラは未だ顎を下げず軍勢を見続けるのが精一杯で、アナスタシアは髪を垂らせ俯いている。 どちらもピサロや亡将を相手取った時ほどの気迫はなく、とても戦域に晒せる状態ではない。 逃げるにしても首輪が、空中城に行くにしても亡城のデータタブレットが問題となる。 (イスラとアナスタシアはまだ動けない。アナスタシアには首輪を解除するという仕事が残っている。 ピサロは竜化が解けて行方不明。実質戦力は半分――埒が開くはずもない) 拳を振り上げる余力もなく、そも拳を向ける先も見抜けない。 故に泥縄。遙か先の禁止エリアで軍勢を維持するジョウイに主導権を取られ続けてしまう。 (……せめて、ブラッドか、ヘクトルが、マリアベルがいてくれればまだ……いや、いないからこその戦争か) ストレイボウは三人の人材を思い浮かべ、すぐに打ち消した。 この状況が生み出している最大の不利は、彼らに大規模な集団戦闘の経験が圧倒的に不足していることだ。 6匹の獅子は、50の羊などもとのもしないだろう。 だが、そこに1人の人間が混ざることで1つの群れとなった今、ただの6匹は羊の群れに追いつめられている。 もしもここに彼らのようなリーダーとなりうる存在が居たならば、6人が1つに纏まれればこうはならなかったかもしれない。 だが、現実的に彼らは集ったばかりの烏合の衆であり、それ故に、ジョウイが狙うべき唯一の弱点となった。 もはやこの戦争を突破するより、勝利はないのだ。 「……やれることをやるしかない、か」 ストレイボウは深呼吸をして酸素を脳漿に澄み渡らせる。 焦るな、焦るなと言い聞かせ、状況を組み立てて優先順位をつけていく。 「何にせよ先ずはピサロの安否だ。だが、どこにいるか……」 「見つけるのは存外容易いかもしれんな」 カエルの視線の先には、空を飛んで魔城に向う2匹が居た。 希神と魔城の戦いに、奴らは直接的な意味を持たない。ならば考えられる理由は一つ。 「狙いは城の中のピサロかッ! 俺が行くッ!!」 「確かに膠着状態に入った今こそが城に入る好機……が、何か考えがあってだろうな」 「ああ、あの城が機械だとすれば、この場は俺しか行ない」 迷いなき瞳で魔城を見つめるストレイボウに、カエルは嘆息を付いた。 そこまで確信を持たれてしまっては反論も野暮で、自ずとやるべきことも定まる。 「全く……なら、いっそ全員で中に入ってしまうというのはどうだ。 少なくともあの城からの攻撃はなくなるぞ」 「生き埋めにされるだけでしょう」 冗談のつもりで言ったカエルの軽口に予想外の方向から反応が返ってくる。 狼に戻したルシエドを侍らせたアナスタシアだった。 俯いたままの彼女の表情は分からなかったが、代わりにルシエドがトコトコと ストレイボウの側まで行き、背中の毛並みを見せつけてくる。 「アナスタシア……」 「わかんないわよ。どうすればいいのか、どうしたいのか。 頭ン中ぐっちゃぐっちゃで、もう訳わかんないのよ」 アナスタシアは手袋のまま、少し濡れた髪をくしゃくしゃとかき混ぜる。 「だから、分かってる奴に貸しとく。この子も、迷ってる私といるよりはいいでしょ……」 進む道が闇に覆われ、進めずとしても。その手だけでもその先を望み僅かに伸ばす。 憔悴した彼女の精一杯を受け取って、ストレイボウとカエルは互いに頷いた。 「道を作る。合わせろよストレイボウ」 「カエル、お前……」 腰溜に剣を構えるカエルに、ストレイボウはその意を察する。 この状況に相応しい二人技。だが、その技は、カエルと彼女の。 「あれだけ見せられて気づかんとでも思ったか。理由は問わんさ。 だが、確かにお前の中に彼奴は、ルッカはいるのだな」 精神を研ぎ澄ますカエルに、ストレイボウは言葉を返すことなく、フォルブレイズをめくり詠唱を開始する。 「ならば、採点してやる。俺が捨てたものが、俺以外の誰かに確かに息づいているのだと……見せてくれッ!!」 「ああッ! 彼女の炎が、彼女の思い出が、まだ此処にあることを示そう――――ラインボムッ!!」 神将器から放たれた焔を天空の剣に纏わせ、カエルが城めがけて一閃を放つ。 氷壁を割り、一直線に延びる炎は、不死なる者たちに触れた瞬間に爆ぜて道を造る。 炎が止めばすぐに蘇り、閉ざされるだろう道は、しかし魔狼が駆け抜けるには十分な道だった。 「……ルッカとは、昨日出会った。もう、会ったときには、死ぬ間際だった」 ルシエドに跨がるより前に、思い出したようにストレイボウは言った。 「そのとき、彼女を背負っていたのが、ジョウイだった」 ストレイボウはクレストグラフを翳し、カエルにクイックを駆けながら世間話をするような調子で語る。 「あの時、あいつは確かに彼女を生かそうとしていた。打算でも何でもなく、零れ落ちる生命を抱き留めようとしていた」 「……ルッカの最後は、どうだった」 続けてハイパーウェポンを重ね掛けされたカエルは、ストレイボウに尋ねる。 今此処でこの話を切り出された意味を薄々感じながら。 「泣いているんだと思った。理不尽な死に、未来が潰えたことに。 でも今なら、生い立ちを、死に様を、名前を知った今なら…… 最後の想い出は、碧色の輝きに包まれていたから、きっと――許されていたんだと思う」 最後にプロテクトをカエルに掛けながら、ストレイボウはそう結んだ。 あの優しい碧光を放つ左手を思い出しながら、ストレイボウはさも今思い出したように虚空に呟いた。 「ああ……そうだった。あの時だった。あいつも、 真っ正面から誰かの死を受け止め過ぎて、押しつぶされそうになっていた」 ジョウイの名に反応したか、イスラは僅かにストレイボウに視線を上げるが、 ストレイボウは省みることなく、ルシエドに跨がる。 「だから――――お前も立ち上がれるって、信じてるよ。イスラ」 不意に呼びかけられ、イスラが頭を上げた時、欲望の狼は瞬く間に魔城に向けて駆けだしていた。 何かを言おうとしていたはずのイスラの口は、半分開いたままだった。 「彼奴の言いたいことが分かったか、適格者」 天空の剣を素振りしながらカエルはイスラに尋ねた。 答えを返すより先にカエルが二の句を継ぐ。 「有り様はどうであれ、あの核識もお前と同じくらいに死を想っている。そうでなくばこれほどの死を背負えまい」 ヘクトルも、あの城も、島の亡霊たちも、そしてイスラの罪たるあの死徒も、全てを背負うが故のSMRA。 そこに、イスラを意図的に貶めようとする浅慮があったなら、たちまちジョウイはこの群れに呑まれていただろう。 割り切れないから、流せないから、真正面から受け止めるしかなくて、死を背負った。 かつて笑い、割り切ったはずのビジュの死を、真っ直ぐに苦しみ続けている今のイスラのように。 同じくらいに不器用なほど、2人は死を想い続けている。 「そんな奴にお前は負けるはずがないと、彼奴は言ったんだよ」 イスラが俯いたまま、時間切れの怨嗟が響く。 ラインボムの爆破が止み、氷壁の割れた部分へと兵たちが再び殺到し始めたのだ。 「俺から言えるのは此処までだ。後は自分で考えろ。なに――――」 だが、カエルは天空の剣を振るい亡霊兵を薙払い、ベロで掴んだブライオンを一気に振り回して遠くの敵を両断する。 カエルにのみ許される、歪な勇者剣二刀流だった。 「その時間は稼いでやる。何分でも、何時間でも、何日でも――――たとえ、十年だとしてもッ!!」 ありったけの補助魔法を受けて、カエルは修羅と化した。 ストレイボウへ敵が行かぬよう、アナスタシアとイスラの下へ行かせぬよう 氷壁の開いた部分に殺到する兵たちを蹴散らしてゆく。 屍体に込められたミスティックが天空の剣で祓われいくが、 一人二人分が解除されようが他の兵たちと分け与えることであっという間に戻されてゆく。 しかし、補助効果が途切れればたちまち粉砕されるであろうカエルは、なんとも軽やかに敵を屠っていた。 弱きものとして、闇にあるものとして、欲望をもつものとして、清濁を合わせ呑んで目の前の敗者を裁いていく。 アナスタシアは見つめる。永遠にでも持ちこたえそうなほどに思えてしまう背中を。 イスラは俯き、感じる。大地に突いた両手に感じる戦場の振動を。 その遙か遠くで、卑しく嘲笑う声を聞きながら。 希望を纏いし巨人と激突する魔なる王城。その最上階、双玉座の間で銃声が響く。 少量の魔力によって散弾のように放たれた弾丸が部屋の壁を抉っていく。 だが、その中に金属の擦れる音が混じる。 銃口の先、巌の如きの手のひらが、射線を塞ぐようにそびえ立っていた。 否、それは巌めいているのではなく、真正、岩石でできた掌壁であった。 その衝立の上から飛翔して迫る影が一つ。一条の光とて戻ることなき暗黒物質を纏った女が射手へ襲いかかる。 応射は間に合わぬと舌打ちをし、射手は一言二言呪文を刻んで手を大地にたたきつけた。 滑らかな石畳と掌に生まれた空隙から風が爆ぜるように吹き上がり、術者たる射手を大きく跳躍させて女の攻撃を回避させる。 女の死角を取る格好となった射手は中空で銃口を向ける。 だが、そうすることが分かっていたかのように、着地地点に回り込んでいた岩石の拳を供えた女が射手の着地と同時に拳を振り抜く。 これほどの質量を振るわれれば、射手の貌など爛熟した果実のように弾け落ちるだろう。 「無駄だ、お前たちでは我が身体を――我が愛を侵すことなど出来ん」 しかし、射手の貌は何一つ傷ついていなかった。 拳は皮膚と外気の境界より先で止まり、くすんでなお美しい銀髪が、女の腕を優しく撫ぜる。 女の手如きで男の肌を害せない――などという次元ではなかった。 幽霊が生者を害せないように、2次元が3次元を害せないように、その拳と内と外は存在の強度が違いすぎる。 これこそが、彼がこの地獄で手にした愛の奇蹟。 たった一つの不朽不滅の愛を以て、己を絶対防御せしめるインビシブル。 これがある限り、射手は勝ちは無くとも負けは無い――はずだった。 振り抜かれなかったもう一つの拳が、射手に触れる。 じゅう、と焼き鏝を当てるような不快な音と共に、拳が射手の頬に触れる。 直立のまま、彼は驚きその拳をみる。威力はなく、蠅が触れた程度の感触しかない。 だが、その感触があるということが問題だった。 この技は、彼の持つ愛の体現。それに干渉したということは、彼の愛を侵したということ。 そして、干渉が出来るならば――“彼奴”のように障壁ごと吹き飛ばすこともできる。 拳を振り抜かれた彼は玉座に吹き飛ばされる。 驚きでインビシブルを解除してしまった彼は、背中を強く打ち付けられたが、痛みに惑う余裕はなかった。 とっさにクレストグラフを構え、風の壁を作って2人の女を遠くへ押しやり、その隙の裏へと隠れた。 すぐさま別の部屋へと移りたかったが、それは叶わない願いだった。 息を乱し、青ざめた肌に汗と砂と埃が張り付く中、彼はじっと足をみる。 最初は足だけだった石化が、膝のあたりまで進行していた。 「まったく……これでは奴らになんと言われるか分かったものではないな」 省みるまでもない2体の化外に追いつめられ、衝立の裏で息を切らす。 泥まみれの頬を擦るこの無様こそが、かつて魔王と呼ばれたピサロの現状だった。 「しかし、なぜインビシブルが破られる。もしやこの泥が関係しているのか」 『それこそは、創世の泥。星の原型<アーキタイプ>たる泥のガーディアン――グラブ=ル=ガブルだ』 「……ラフティーナか。貴様の鎧も存外当てにならんものだな」 脳裏に響く声を感じ、ピサロは懐から金色のミーディアムを取り出す。 その間も、銃だけを玉座か跳びさせて、適当に魔弾をばらまいている。 『……ガーディアンの権能とは即ち想いの力だ。汝も知っての通り、此処は憎悪という想いに染められし異界。 我ら貴種守護獣はミーディアムを具現するだけでもファルガイア以上に消耗を強いられる。 故に、同位――同じ貴種守護獣に達するほどの想いであれば、我が守りとて十全ではない』 「あの女のように、か。ならばあの小僧も何か守護獣を得たというのか」 『より性質が悪い。あれは我ら貴種守護獣……否、全ての守護獣の母たる“始まり”の守護獣の一部。ならば……』 「子が親に勝てる道理はない、か? 下らん」 ピサロは忌々しげに舌打ちをし、玉座の後ろから女たちを見つめる。 命無き人形が城が、生命の泥を纏って、ヒトの輝きを奪いにくる。 その皮肉に、人形の主たる魔王の性根の悪さを感じずにはいられなかった。 「しかし、どうするつもりだ。その足は我でも治せんぞ」 しかし、劣勢であることに疑いはなかった。 回復魔法はあれど状態回復魔法無き今、石化はすでに歩行もままならぬほどに進み、 呪文はろくに唱える暇さえ与えられず、 絶対防御は絶対ではなく、敵の不自然なほどの連携で、一撃必殺を狙うこともままならない。 有り体に言って絶対絶命だった。 (しかし、力押しで命を取りに来ることもできるはずだが、連中何を待って……) 『上だッ!』 ラフティーナの声に反応し、上を向いたピサロが見たのは天井を滑るように現れた流液と爬虫の女たち。 新たに現れた増援に唸りながら、ピサロは弾幕を張りつつ後退する。 だが、もはや杖無しでは歩けぬ足では如何ともしがたく、すぐに壁に追いつめられてしまう。 敗者が、生命を持たぬ人の形か、勝者を、命あるものを追いつめていた。 「4人の雌に囲まれるというのは、人間の雄共ならば興趣尽かぬ状況であろうな。 だが、私には無用。消えよ端女ども。貴様等共に食わせる肉などないと知れ」 それでも己が高貴を曇らせることのないピサロに、疎むように4人が殺到する。 ピサロは銃を構えた。最後の最後まで己が性を貫くために。 「ピサロッ!!」 掛けられた名とともに、豪炎が石畳を走る。 炎はたちまち女共――フォビア達の周囲をまとわりつき、彼女らの足を止める。 その瞬間、月が閃く。研ぎ澄まされた狼爪の軌跡を、女の血が彩った。 ストレイボウと影狼ルシエド、ある種この場で最も安定した援軍だった。 フォビア達の姿が、狼の背に跨がったストレイボウの背中に遮られる。 アナスタシアの眷属であるはずの魔狼と共にある姿は、不思議と違和感がなかった。 突如の乱入に、フォビアは4人と集まり、ストレイボウを見つめ続けている。 「退いていろ、貴様では――」 勝てぬ、とまるで気遣いのようなこと言おうとしたのは、太陽の下で少なからず会話をしたという事実故か。 だが、ストレイボウの背中から迸る何かが、ピサロに恥をかかせなかった。 手負いとはいえピサロを追いつめるほどの者たちを前にしたストレイボウの表情は伺えない。 しかし、あの矮小の極みだった背中が大きく見えるのは、決して狼上にあるだけが理由ではないだろう。 決意、というよりは……歓喜にも似た高揚に、ピサロには思えた。 「「「「―――――――――――」」」」 「なっ!?」 だが、ストレイボウの期待を裏切るように、流すように、フォビア達はわずかな膠着の後、素早くバルコニーから逃亡する。 鮮やかとさえ言える遁走に、甲高い一歩が響く。 フォビアに向けて踏み出したストレイボウの右足は小刻みに震え、そして何とか収まった後、ピサロへ向き合った。 「大丈夫……だなんて言うなよ」 「まさか、貴様に助けられるとはな……」 ストレイボウの視線がピサロの足に向く。この応酬の間も石化は進行し、もはやピサロは直立もままならない有様だった。 ひとまずストレイボウは肩を貸し、ピサロは玉座に身体を預けながら、互いの状況を確認し合う。 「まだ奴らはくすぶっているのか」 苛立つようなピサロの感想に、ストレイボウは苦笑いを浮かべた。 「だけど、立ち直るって信じてるんだろう」 「……当然だ。こんな持たざるもの共如きに砕かれる程度なら、とうに私が砕いていた」 図星を突かれたピサロはそっぽを向いてそう答える。だが、ストレイボウは逆に目を細めた。 「持たざる者、か」 回復魔法を自分に施すピサロは、彼の寂寥な声色に眉根を潜めた。 屍に人形たち。小者の残骸で出来た小兵に、王を気取るように示された誰もいない廃城。 そんな有象無象をかき集めて急造された魔王の軍勢に、いいように追いつめられている。 そこに不快こそあれ、噛みしめるようなものなどピサロには無かった。 「……多分、今もこの城はアキラと戦っている。その割りには静かだと思わないか」 ストレイボウは城の内壁を撫で、指先に苛烈な振動を感じながらひとりごちる。 「この城がどれほどに未練を抱いたかなんて想像もつかないが、この城が凄いってことは分かるよ」 ルシエドと共に城内を駆け抜けたストレイボウの、技師としての感想はその一言につきた。 耐候性、居住性を持たせながら、これほどの大規模な構造物に砂漠潜行機能を持たせる。 落成から相当な年数を経ているだろうに、機能としてのかげりを微塵も感じさせない。 おそらくは、作られてから幾度も修繕と改良と試行錯誤を繰り返していたのだろう。 ルッカの視点から理解できるこの城の想い出に思いを馳せれば、 この城が愛されていたことと、この城のある国を愛した者たちと、そしてこの国を束ねた国王を思わずにはいられない。 この城は王を飾るためでも、国の威光を示すものでもなく、きっと砂漠に生き続けた彼らの……“家”だったのだ。 「フィガロ。名は聞いていたが、きっと素晴らしい国だったんだろうな」 ルクレチアのように、国民全員が未練を抱えて亡霊に堕ちるような国ではなく、 と苦笑いするストレイボウの背中に、ピサロは慄然とする。 己を誰よりも敗者だと思うストレイボウは、それ故この場で誰よりも公平に敵と味方を想えている。 翻って自分はどうか。 力によって絶対の順列を決する魔界の秩序では、城など王の付属物に過ぎなかった。 それ以外のものなど、想像すら出来なかった。 それは彼が高潔で、世界に匹敵する個我を持つがゆえの皮肉だった。 彼が知ったものこそが世界で、それ故に、彼の世界は完結している。 愛を知ったのではなく、彼女を愛する自分を知っただけで、 人の愚かさを悟ったのではなく、愚かな自分を知っただけで。 魔族の願いで、邪神官の計らいで、誰かの命を懸けた魔法で、聖剣と愛が起こした奇跡で、 誰かが触れなければ、誰かが与えなければ、永遠に変わることはない彼は。 「……自分を省みることはできても、奴らを省みることはできんということか」 自らが口ずさんだ言葉で我に返り、ピサロはストレイボウへと視線を向ける。 あわよくば、とピサロは思ったが、ストレイボウの耳はその言葉を拾っていた。 「……そんな大層なことじゃないさ。俺だって、何が変わったわけでもない。 偉そうなことを言ったって、ただの妄想に過ぎないかも知れないんだ」 ストレイボウの唇が咎人の諧謔に卑しく歪む。今更に聖人を気取っている己の姿に自嘲が無いはずもない。 「結局のところ、どこまで言っても俺は一番の罪人だ。だから、誰も呪えないだけなのかもしれない。 あるいは……俺が許されたいだけなのかもな。 俺がお前を許すから、俺を許してくれって、浅ましく思ってるだけかもしれない」 誰よりも罪深く、許しと償いを乞い続ける原初の咎人。その煤けた笑顔に、ピサロは唇を強く結んだ。 他者を想い、罪を思い、償いを為す。それは彼女がピサロに願ったこと。 それを体現する男は、それでもまだ罪深いと十字架を背負い続けている。 「ならばどうすれば、許される? お前が立ちたいと願うあ奴への傍らに、いつたどり着ける?」 「許されないかもしれない。たどり着けないかもしれない。 それで当たり前。俺がしたことは、それくらいのことなんだ」 薄々と予感していた答えを先駆者に言われ、ピサロは押し黙るしかなかった。 ピサロとストレイボウでは罪の認識が根本的に異なる。 自分が背負うものを、”彼女が罪だと言うから罪”だと思っていた程度の罪だと、思っていなかったか。 たどり着けない道を永劫に歩き続ける覚悟が自分にあっただろうか。 「それでも歩き続けられるのは……なぜだ」 「……“聖者のように、たった一言で誰かを悲しみから救うことはできない”。 俺たちは、軽いんだ。それでも俺たちは、一言で全てを解決してしまうような…… そう、“魔法”みたいな何かを期待する。俺もそうだった」 懐かしむように紡がれた答えに、ピサロは面食らう。 「そうしたら、こう言われたよ。でも、だからこそ――――」 変わりたいと思っても変われない自分に苦しむ姿が、かつてのストレイボウとピサロに重なる。 そこに、暖かな木漏れ日のような言葉が染み渡る。 「『でも、だからこそ、私は何度でも言葉を重ねることしかできません」』 渇き苦しむ罪人に、両の小指を沿わせて掬った水を差し出される。 仄かに甘く薫るその水が、喉を潤してゆく。 「『たとえ一晩中でも、夜明けまで重くなる瞼を擦りながら……欠伸を我慢しながらでも話したいと思います……」』 頭を上げた先の、その聖人の顔を、罪人が間違うはずがなかった。 「それでも、歩き続けるしかないんだ。 たった一歩で届くことはなくても……歩かなきゃ、絶対にそこには辿り着けないんだ」 全てを理解したと察したストレイボウは、先駆者としてそう言葉を締めた。 たどり着けるからではなく、たどり着きたいから。 何度でも語り続けよう、何歩でも歩き続けよう。 その意志の果てに叶わない夢はないのだから。 「そうか……君は……生きているのだな……」 何かを噛みしめるようなピサロの呟きに満足したストレイボウは、この後について考える。 ピサロの石化をどうにかしなければならないが、回復手段はアナスタシアのリフレッシュしかない。 とすればピサロを彼女のもとまで運ぶ必要があるが、ここに来るまでに見つからなかった以上もう一つ仕事が残っている。 「しかし、何でフォビア達は退いた? ここで分断された俺たちを見逃す手は無いはずだが……それよりも重要な攻略点なんて――――」 フォビアが4体まとめてピサロを攻めたのは、ピサロが弱体化した上で孤立したからのはずだ。 増援があったとはいえ、依然としてピサロ崩しの好機だったのは間違いない。 それを見逃す理由はいったい何か? まるで、ストレイボウがここまで来た時点で目的を達したかのような―― 「真逆ッ!?」 「リレミトッッ!!」 ストレイボウの気づきよりも僅かに早く、呪文を唱える暇を漸く得たピサロが光となって飛翔する。 ルーラを応用したその呪文は、ピサロを光に変えて城から脱出させつつ、一直線に兵士たちの密集区へと向わせた。 「……俺のバカ野郎が……ッ!」 自分の肺を握りつぶすように息を吐きながら、ストレイボウは弾かれたように階下へと降りていく。 『どこに行くつもりだ』 「今から俺たちが行っても間に合わない! 初撃はあいつらに任せて、その後に供えるッ!!」 ルシエドの問いに、ストレイボウは自分に言い聞かせるように答えた。 ルシエドは一瞬考えた後、ストレイボウを背中に乗せる。 『俺が行けばお前は何も出来まい。 それに、お前を助けた方が結果的に助けになるのだろう? 敢えて聞かせろ、敵の狙いは?』 ルシエドに感謝を込めて毛並みを撫でながら、ストレイボウは地下に目を向けながら走る。 「頼んだ、みんな。敵の狙いは、狙いは――ッ!!」 アナスタシアの頬に、鮮血が降りかかる。噎せ返るほどの血と泥の匂い。 豊かな髪にまで透った血の中で、かろうじて血を浴びなかった左目が、 氷の壁に見えた、わずかな亀裂をくっきりと映し出す。 壁の向こうで、両生類が叫んでいるが、上手く聞き取れない。 遠く遠く、私たちを嘲笑い続けていた声も聞こえない。 ぼすり、と業物の苦無が地面に刺さる。 禍々しい毒の色と、ばちばちと纏う雷の色が地面で赤色と混ざる。 暗器・凶毒針。かつて彼女を裏切った男の、障害を抜いて狙い撃たれた奥の手が完了する。 ルシエドという最後の守りすらも手放した莫迦な女は、きっと格好の餌食だったのだろう。 たとえ死に至らずとも、このか細い腕を害せば、もう首輪は外せないのだから。 そしてそれは、私に向けて冷徹に実行され、炸裂した。 兵を運動させて混乱させ、人形を遣い兵力を誘引し、火力支援を利し、 弱者たる彼女に向けて、完璧に、誰にも読ませないまま完璧に穿った。 「……無事?」 ただひとつ、たったひとつ狂いがあったとするならば。 この世界を覆う血が、私のものではないということ。 左目が、目の前の黒い何かを見つめる。 線の細い左半身と、きめ細かい女のような黒髪。 「そう……なら……」 舌の上で脂以外の触感がする。 粉々に、弾け飛んだ、肉の柔らかさと、骨の硬さ。 ねえ、イスラ君。また私に私以外の何かを失えというの? ねえ、イスラ。なんでお前の腕がないの? 「よか―――――――――――――」 欠けた腕から鮮血を散らせながら、安堵そのものの吐息を漏らして少年は崩れ落ちる。 私は血塗れた手を伸ばすけれども、繋ぐ手は届かなくて。 倒れたイスラに、かける言葉が見つからなくて。 ただ、幽か、聖剣から稲妻の奔る音がした。 【C-7とD-7の境界(C-7側) 二日目 日中】 【イスラ=レヴィノス@サモンナイト3】 [状態]:左腕完全破壊 麻痺 ??? [スキル]:??? [装備]:魔界の剣@DQ4 ドーリーショット@アーク2 44マグナム@LAL*残弾無し ミラクルシューズ@FF6 [道具]:召喚石『天使ロティエル』@SN3 召喚石『勇気の紋章』@RPGロワオリジナル [思考] 基本:??? [参戦時期]:16話死亡直後(病魔の呪いから解かれている) 【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】 [状態]:血塗れ 動揺(極大) ダメージ 中 胸部に裂傷 左肩に銃創(いずれも処置済み) 精神疲労:小 [スキル]:せいけんルシエド(※現在ルシエドがストレイボウに同道中のため使用不可) [装備]:アガートラーム@WA2 [道具]:ラストリゾート@FF6 いかりのリング@FF6 日記のようなもの@貴重品 [思考] 基本:??? 1:――――――――イスラ……? [参戦時期]:ED後 ※現在ルシエドをストレイボウに貸しているためせいけんルシエドは使用できません。 使用する場合はコマンド『コンバイン』を使用してください。 ただしその場合、ストレイボウからルシエドが消失し、再合流まで貸与はできません。 【カエル@クロノ・トリガー】 [状態]:瀕死 最大HP90%消失 精神ダメージ 小 覆面 右手欠損 左腕に『罪の証』の刺傷 疲労 中 胸に小穴 勇気 真 ステータス上昇付与(プロテクト+クイック+ハイパーウェポン) [装備]:ブライオン@武器:剣 天空の剣(二段開放)@DQ4 パワーマフラー@クロノトリガー バイオレットレーサー@アーク2 [道具]: [思考] 基本:幸せになれと、その言葉は刻み込んだ。ならば痛みにこの身を晒し、幸せを探して生きるのもひとつの道かもしれんな。 1:イスラ、アナスタシアッ!! 2:伝えるべくは伝えた。あとは、俺にできることをやるだけだ [参戦時期]:クロノ復活直後(グランドリオン未解放) 【アキラ@LIVE A LIVE】 [状態]:ダメージ:大、疲労:大、精神力消費:極大 [スキル]:PSY-コンバイン フォース・バウンティハンター(Lv1~4) [装備]:デーモンスピア@DQ4 激怒の腕輪@クロノトリガー [道具]:双眼鏡 不明支給品@魔王が初期に所持していたもの [思考] 基本:本当の意味でヒーローになる。そのために…… 1:クソッあんな空からの攻撃だとッ!? 防ぐしかねえってのか! 2:この俺の希望を、見せてやるッ! 見せつけてやるッ! [参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し) [備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。 ※カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。 ※松のメッセージを受信しました。かなり肉体言語ですので、言葉にするともう少し形になるかもしれません。 【SMRA隊】 【反逆の死徒@???】 [状態]:驚愕 クラス『モルフ崩れ』 軍服黒焦げ [装備]:蒼流凶星@幻想水滸伝2 黒き刃@幻想水滸伝2 亡霊兵(25名) 副将:フェミノフォビア(抜け道付加)、アクロフォビア(飛行付加) [スキル]:暗器・凶毒針 状態付加・麻痺 遠距離攻撃・召雷 ゲレハラスメント(憑依:攻撃力防御力20%減少) 再生能力(毎ターンHP25%回復)俊敏、逆襲、狙い撃ち [思考] 基本:ただ導かれるままに 1:皆殺し 2:一番弱くて弱い奴を嬲る 部隊方針:アナスタシア、イスラ、カエルに突撃。フォビア4体も到着後投入。 [備考] ※部隊は亡霊兵@サモンナイト3、スケルトン系@アーク2、グール系@アーク2、リッチ系@アーク2の混成です。 ステータスはいずれも雑魚相当。残る参加者のレベルなら普通に戦闘すれば1、2撃程度で倒される程度です。 ただし、輝く盾の紋章効果にて時間復活します。部隊長を倒せば配下兵力の復活はありません。 また、副将を倒せば更に弱体化します。 【砂喰みに沈む王城@???】 [状態]:クラス『大魔城』外壁損傷(大) 駆動部中破(スペシャルボディにて無効化) 左腕<左回廊>から先を損失 [装備]:亡霊兵(25名)データタブレット@WA2 副将:クラウストロフォビア(石化攻撃付加)、スコトフォビア(HP吸収付加) [スキル]:ハードボディ、スペシャルボディ コマンド:きかい(どりる) [思考] 基本:ただ導かれるままに 1:皆殺し 2:あの鋼の光は破壊する 部隊方針:フォビア含めて反逆の死徒の指示に従う [備考] ※部隊は亡霊兵@サモンナイト3、スケルトン系@アーク2、グール系@アーク2、リッチ系@アーク2の混成です。 ステータスはいずれも雑魚相当。残る参加者のレベルなら普通に戦闘すれば1、2撃程度で倒される程度です。 ただし、輝く盾の紋章効果にて時間復活します。部隊長を倒せば配下兵力の復活はありません。 また、副将を倒せば更に弱体化します。 【フィガロ城内部 二日目 日中】 【ストレイボウ@LIVE A LIVE】 [状態]:ダメージ:中、疲労:中、心労:中 勇気:大 ルシエド貸与中 [スキル] ルッカの知識(ファイア、ファイガ、フレア、プロテクト)*完全復元は至難 [装備]:フォルブレイズ@FE烈火 天罰の杖@DQ4 マリアベルの手記@貴重品 “勇者”と“英雄”バッジ@クロノトリガー [道具]:クレストグラフ@WA2(クイック、ハイパーウェポン) [思考] 基本:“オルステッド”と向き合い、対等になる 1:みんな、アナスタシアを頼む……ッ! 2:イスラの力に、支えになりたい 3:罪と――人形どもと、向き合おう 4:俺はオルステッドを、どうすれば…… [参戦時期]:最終編 ※アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません) ※ルッカの記憶を分析し 【バトルロワイアル開催以降の記憶】と【千年祭(ゲーム本編開始)以降の記憶】を復元しました。 ※ジョウイより得た空中城の位置情報と、シルバードの情報をほかの参加者に伝えました。 【ピサロ@ドラゴンクエストIV】 [状態]:リレミト中(ルーラ同様移動に時間がかかります) クラス『ピュアピサロ』 ニノへの感謝 ロザリーへの純愛 精神疲労:やや大 左腕骨折、胴体にダメージ大、失血中、徐々に石化@現在膝上まで進行中 [スキル]:魔封剣、デュアルショット、アルテマバスター*いずれも要バヨネット装備 ミーディアム:ラフティーナ [装備]:バヨネット@RPGロワオリジナル [道具]:ミーディアム『愛の奇蹟』@WA2 クレストグラフ@WA2※ヴォルテック、ゼーバー、ハイ・ヴォルテック データタブレット×2@貴重品 [思考] 基本:すべての命が、自らの意志で手を取り合える世になるよう力を尽くす 1:……まったく、世話のかかる…… [参戦時期]:5章最終決戦直後 ※バヨネットからパラソルが無くなりました。魔導系コマンドはそのまま使用可能ですが、魔力補正がなくなりました。 【用語解説:謎の衛星攻撃】 優勢だった幻想希神へと狙い撃たれた超々高度からの光学射撃。 ストレイボウとカエルは未来時代の知識から衛星攻撃と類推しただけであり、詳細は不明。 上空からの攻撃となると天空城からの攻撃とも疑えるが、 この戦いに干渉の動きを見せないオディオの仕業とは考えられない。 とすれば、ジョウイの仕業と見るのが妥当だろう。 核識として島の状況を知ることのできるジョウイならば、タイミングを計ってピンポイント攻撃も不可能ではない。 肝心の攻撃方法だが、紋章にも遺跡にもこのような技はないため、ジョウイが持つ最後の支給品の可能性が極めて高い。 ただ、それはちょこが所持した「アナスタシアから見て生き残るのに役に立たないモノ」であるため、 単純に兵器を所持しているとは考えにくい。ひょっとすれば、鍵のようなそれと理解できなければ使用できないものかもしれない。 いずれにせよ、巨大兵器戦をジョウイが想定していたことは疑う余地もないだろう。 時系列順で読む BACK△161 Beat! Beat the Hope!!Next▼ 投下順で読む BACK△161 Beat! Beat the Hope!!Next▼ 160-2 響き渡れ希望の鼓動 アナスタシア [[]] イスラ ピサロ カエル ストレイボウ 161 Beat! Beat the Hope!! アキラ [[]] ▲
https://w.atwiki.jp/rpgrowa/pages/365.html
瓦礫の死闘-VS究極獣・Radical Dreamers-(前編) ◆wqJoVoH16Y 「ギャンブル場をつぶして改造すれば、もっと速くなるぞ」 そういってちょび髭のオッサンを故障したエンジンルームから蹴とばしたのはいつのことだったか。 ポーカーフェイスもへちまもない、未通女でもあるまいに。 少々大切な場所に触れられた程度で手を跳ね除けるとは。 今から時を越えられるなら、少し自分に説教したいくらいの情けなさだ。 「大切なのね、この船が」 振り向けばそこにいたのはティナだった。 こうして改めて見ると、セリスとどっこい……いや、別路線で攻めればあるいは…… 頭に沸いた妄想を振り払う。エドガーじゃあるまいに、そんなことを考えたのは、もう一人の女のことを考えたくなかったからか。 「きままなギャンブラーぐらしをしてる俺にも、若いころは必死で打ち込める事があった…」 ほら、よくない。こうやって雪崩式につまらないことを思い出して、 「こいつを世界一速い船にして大空をかける…そんな夢を追いかけていた」 もう追いかけるつもりもない夢を、誰かに語ってしまう。 「そのころは俺を夢にかり立てるヤツがいた。世界最速の船、ファルコン号をあやつる飛空挺乗りだ」 誰にも聞かせたことのない歌を、歌ってしまう。 「俺とヤツは… 時にはよきライバル、時には夢を語り合う親友だった。 どちらが先に空を突き破り、満天の星空の中を航海できるかと……」 青臭い。ギャンブラーとは程遠い。ガキ相手だからとガキの話をしなくてもいいだろうに。 ほら、そのくらいでやめておけよ。バレちまうぞ。 「……だがヤツがファルコンと共に姿を消した時、俺の青春も終った」 そう、セッツァー=ギャッビアーニの懐いた夢は、世界の崩壊とともに壊れたのではないのだ。 その遥か昔――ブラックジャック号にギャンブル場ができたとき、 ある一人の飛空艇乗りが死んだとき、とっくに終わっていたのだ。 ギャンブル場などという重しを翼に乗せて、世界最速の夢を潰しておきながら、 それでもその翼を折って完全に潰す勇気もなかった。 叶えるつもりもなく、叶わないと頭を垂れることもできず、残ってしまった命を、ギャンブルの刺激に浸らせていた。 そのくせ、いざ自分の翼が折れてしまうと、踏ん切りをつけるどころか酒浸り。 ブラックジャック号があろうがなかろうが変わらないのに。 あいつの言うとおりだ。宙ぶらりんに翼を残して、薄めに薄めて人生――――それがギャッビアーニという銘の酒だ。 「多分な、夢を残したまま、死にたかったんだと思う」 自分という名の酒をちびちびと飲みながら、セッツァーはそう吐いた。 「叶える気もない、だけど諦める気もない……だから、夢に酔ったまま死ねれば……」 薄すぎる酒を舌の中で転がし、懸命に味を探す。 マリアを奪いたかったのも、帝国とのギャンブルも……つまるところ、死ぬまでの暇潰し。 消極的な自殺といってもいいかもしれない……それがギャンブラーとして良く回転したのは皮肉だったが。 「なんだ、飲み返すと馬鹿馬鹿しいな。こいつ何がしたかったんだ。死ねよ」 そういって自虐を浮かべながら、セッツァーはさらに一献を飲み干す。 アティという女を嗤えないではないか。死にたければ死ねばいい。 ブラックジャックを有り金全部で改造し、最速の果てへヤツに会いに行けばいい。 満天の星空の中で満足に笑って死ねばいいのだ。 「……? 違うのか。“俺の夢は、それじゃないのか”」 味蕾に走った痺れを逃がさぬように、セッツァーは口にその微かな風味を反芻する。 もしも、真に世界最速が彼の夢であるのならば、奴が死んだからと夢を諦める意味はない。 奴の航路データを基に改めて世界最速に挑めばいいだけだ。 それを俺は諦めた。俺の夢は、奴の死と共に終わってしまったから。 ――――今度のテスト飛行は危険かもしれない。 まさか、俺がアイツに恋をしていたとでもいうのか。 世界最速になりたいのではなく、世界最速を夢見た女の傍にいたかった、ただの野郎だったのか。 ――――私にもしもの事があったらファルコンはよろしく。 「バカ言え」 違う。ふと浮かんだあまりに詰まらない答えを押し流すように、セッツァーは杯を空にした。 アイツはいい女だった。だが、俺はあいつを止められなかった。 無茶だと、危険だとわかっていても、あのテスト飛行を止められなかった……止めなかった。 「アイツが一番輝くのは、空の上だ……あそこで風を切らなきゃ、咲けない花なんだよ」 懐から一枚の栞を取り出す。 無理やり船から降ろして、どこかに閉じ込めて、死んだら困る俺の女になれと言えばよかったのか。この栞のように。 出来ればとっくにしていたろう。だが駄目なのだ。摘み取ってしまえば枯れてしまう。 そして……俺が美しいと思ったのは……ありのままの花なのだ。夢に咲いた花なのだ。 「俺の前から逃がさねぇと言ったろうが……勝ち逃げのつもりかよ……俺は……俺はな……」 酒を飲むたびに少しずつ、少しずつ、体内で酒精が蒸留されていく。薄め続けてきた退廃的な生を濾過していく。 奴に勝ちたかった。奴よりも少しでも速く有りたかった。 それが、摘めば枯れる花を愛でる唯一の術だった。世界最速など、その結果に過ぎない。 ならば何故。何故俺は、アレを美しいと思ったのだ。恋ではない。肉欲など雲海にありはしない。 ――――いつまで後にいるつもり? くやしかったら私の前に出てみな。 「俺は、ただ……」 圧倒的な強さで流れていく大気。激烈で苛烈で猛烈な流れが生む心地よい冷却を全身で感じ取る。 轟音にも等しい大気の鳴き声。銀髪と黒い裾をはためかせて、対峙する夕陽の何と荘厳なことか。 ――――それとも私のおしりがそんなにみりょく的なのかしら? 「……お前の尻も悪くはないけどな……」 杯が満たされたとき、瓶の口から滴が垂れて、波紋を立たせた。これが最後の1杯だ。 この太陽の輝きには全てが霞む。太陽に最も近い場所で、俺は太陽を追う。 どんなギャンブルでもこの高みには辿り着けない。 生<リターン>と死<リスク>が融合した場所で、俺はただ挑み続ける。 眼下の大地など興味はない。見下して得られる悦など、この輝きの前には無に等しい。 ――――これからが本番よ。きろくをぬりかえるわ! 「やっぱり、見たいじゃないか。俺だって男だからな」 ああ……あの赤く燃えた夕陽の向こうで、高らかに歌った花よ。夢に輝いた、最高の光よ。 ひょっとしたら……お前に俺の顔なんて見えちゃいなかったかもしれない。 誰よりも速いお前は、空ばかり見ていたから。 それでも構わない。むしろそれがいい。後ろを省みるなんて、お前には似合わない。 俺の存在が僅かにでも重荷になるなら切り捨てろ。 だから突き抜けろ。俺も誰も省みず、より速く、より強く、より高く、咲き誇ってくれ。 ――――くもをぬけ、世界で一番近く星空を見る女になるのよ! 「その向こうでお前がどんな顔をしてるのか、気になってしかたねえんだよ……ダリルッ!!」 そんなお前を越えて、お前の顔を正面から見て、正々堂々と奪っていくから。 「うっぷ、ぷぷ、ふくくく、くは、ハハハハハハハハッッ!!」 最後の一滴までも飲み干したセッツァーの口から、げっぷと共に笑いが迸った。 薄めに薄めて、もう味もろくに分からなくなった俺の酒……それでも、延ばし延ばして絶やせなかった俺の夢。 生と死の狭間、空を突き抜けた先の星空を見たいと言った君は、そこでどんな顔をするのだろう。それはきっと何よりも美しい。 だから最速なのだ。尻を追うだけでは見えること叶わぬ。肩を越えて顔を拝むためには最速になるしかない。 世界最速のいい女の顔を見たかった。ただそれだけの、青い春だったのだ。 「これが俺の酒か! なんて青臭え!! 鼻が曲がる。舌が痺れる。不味いったらありゃしないッ!!」 笑い過ぎた息を整えながらセッツァーは立ちあがる。 トルネコ<世界一の武器商人>、ヘクトル<理想郷>、アティ<傷つけたくない>、 ロザリー<貴方に届け>、無法松<燃え尽きた夢の灰>、ジャファル<君に生きてほしい>。 ここまでにセッツァーが呷り煽ってきた数々の酒器達が並べられ、それを見てセッツァーは心の底から不明を恥じる。 アキラの言うとおりだ。己は薄い自分の酒の味を恐れ、他人の酒を呑んで難癖に絡む酔漢でしかなかった。 愛すべき仲間たちの銘を受けた色取り取りの酒も並ぶ。 帝国の独裁から自由を勝ち取ろうと願われた夢が硝子の向こうで輝いている。 それだけじゃない。これまでセッツァーが味わったことのない酒瓶も並んでいた。 これから注がれる夢も、あと一滴しか残っていない酒も、どれもが自由に輝いている。 環境は苛烈。ふとしたことで失敗してしまった酒もあるだろう。それでも、人は夢を創り続けている。 みんな違うのだ。素材も、製造法も、熟成も。そうやって夢に満たされたのが、世界じゃないか。 「……どうしてくれんだよ……不味過ぎだぜ。不味過ぎて不味過ぎて……」 そんな美酒、名酒集う酒場で、セッツァーはようやく得心する。 世界にはこんなにも夢が、溢れているのだ。だったら、その事実を先ず受け入れて―――― 「もうこの酒しか呑めねえよ」 “俺の酒以外全部棄ててしまえ”――――――この空には、俺の夢だけでいい。 夢見たあなたは 遠いところへ Oh my heroine, my dream ,Shall we still be made to part, 色あせぬ永遠の夢 誓ったばかりに Though promises of perennial dream Yet sing here in my heart? 「なんだ? 何を言ってやがる?」 セッツァーを吹き飛ばした血まみれの鉄拳を布で拭いながら、アキラはセッツァーから聞こえた声を訝しむ。 怒れどもゴゴのこともあり、確かに殺しはしていないが、それでもダメージは致命的な筈だ。 なのに倒れた相手から湧き上がる音は、ひどく場違いで、はっきり言って不吉でだった。 「……歌、ですか……?」 アキラと共にそれを聞いたちょこは、それを歌だと思った。ちょこがイメージする歌に比べ、やけに芝居がかった音調だったが。 だが、歌姫シャンテの歌を聞いたことがあるちょこは、そこに得も言われぬ悪寒を覚えた。 魂の込められた歌は、聞き手を歌い手の世界に誘う。聞いてしまえば、二度と帰ってこられないような世界に。 「……何、これ……?」 ピサロが変態を終える前に、聖剣の一撃で消し飛ばそうと構えていたアナスタシアの手が止まる。 か細い音は、しかし決して断てぬ糸のように伝っていた。 その歌にアナスタシアの過去が共振し、彼女は確信する。 あの歌は、よく似ている。かつて生贄となったとき、私が世界に歌った呪い<シニタクナイ>の歌に。 「え、ルシエド、なんで震えて……ッ!?」 歌に共鳴したのは、アナスタシアだけではなかった。その手に持った聖剣ルシエドが大きく震えている。 そして―――― 悲しいときにも つらいときにも I'm the darkness, you're the starlight Shining brightly from afar. 空に降るあの星を あなたと追い Through hours of despair, I offer this prayer To you, my evening star. 肉塊の内側から響く歌と共に、止むことなく連鎖していたデスピサロの進化が止まった。 「……まさか、お前がこんな歌を歌えるとは思わなかったな」 デスピサロへの変生のさなか、失われていくピサロが自嘲した。 誰が歌っているかなどどうでもいい。だが、その歌に、残されたピサロの意志が呼応した。 「ああ、そうだ。お前に歌われるまでもない。私は誓ったのだ。二度と忘れぬと、永遠に愛すると」 一瞬たりとも『勇者』に囚われてしまった不明を、ピサロは胸の深い所で自省する。 背中の火傷の記憶が、デスピサロの道へ歩みかけた自分を叱咤しているようだ。 済まないと思う。だが、もう一度成りかけたのも、そうそう悪いものではない。そうピサロは苦笑した。 「礼を言うぞ、オディオ。お陰で思い出すことができた……私は、3度もロザリーを殺していたのだな」 誓いを立てた今だからこそ分かる。人が真に死ぬのは、命果てた時ではなく、忘れられてしまった時なのだと。 ロザリーは人間によって殺された。そして、この島で魔王と勇者の雷によってもう一度死んだ。 だが、真に罪深きは――進化の秘法によって全てを憎悪で塗り上げ、ロザリーを忘れてしまった2度目の死なのだ。 忘れぬ限り、愛は終わらない。受け取った心を捨てぬ限り、永遠はなくならない。 ――――ならば『敗北』するというのか? どんな綺麗ごとを述べようが『勝者』にならねばお前の大願は果たせない。 そのためには『力』が要るだろう。ならば憎め。愚かな人間を憎め。愛を逆さに変えて憎しみに進化せよ。 闇が、そう言った気がした。どこか哀願するような口調で、同病を相憐れむように。 それは至極正論だった。ピサロもそれしかないと思っていたからこそ、僅かにもデスピサロへの道を選びかけたのだ。 「違うな。誰も彼もが愚かなのだ。そこに人間も魔族もない。我らは、等しく愚者だ。 それさえも忘れてしまえば、我らは罪人ですらなくなってしまう」 だが、ピサロは知っていた。力だけが全てではないことを。 その矮躯であっても、炎のように駆け抜けた一人の少女の愚かさを。 愛する人の願いを理解しながらも、その願いを踏みにじって歩く自分の愚かさを。 かつてロザリーの命を奪った欲望も、ピサロが抱くこの願いも、等しく愚かなヒトの夢なのだ。 「最早、憎しみなど抱かん。私はただ、この夢を――――愛を貫くだけだ。 立ち塞がるならば等しく殲滅する。誰もと同じ1人の愚者として、私はロザリーを愛し続けるよ」 かつて人間を憎み抜いた魔王は、ただ一人の男として、その愚かな世界で足掻き続けることを選んだ。 ただ一個の生命として、ただ一個の生命を想い続ける。 そこに一部の隙もなく、有象無象の人間を憎む隙間などありはしない。 「失くした程度で砕ける愛など、憎しみに変えられる程度の愛などもう要らん! 進化に逆らってでも、今度こそ、この愛を徹して見せるッ!!」 デスピサロとして憎むのではなく、ピサロとしてロザリーを愛し続ける。 闇の中で高らかに告げられた愛に、ピサロの胸の中で何かが白く輝き始める。 「これは、あの店主の……!?」 ――――その想いは、力へと至り、狂愛となりて我へと届く。 ピサロの懐から光が飛び出る。それは古ぼけた石像だった。 女神を象った、かつて愛を司った存在の骸が、強烈な光を放つ。 その光に、ピサロの心臓が高鳴った。締め付けられるほどに胸が苦しくなる。 光の先に女性の影が浮かぶ。その輪郭を一目見ただけで、ピサロはこれが夢かと錯覚した。 そして、ピサロはその胸の高鳴りを吐き出すように、この歌に続いた。 どうか夢なら醒めるな、待ってくれと、その影に手を伸ばすように。 望めぬ契りを 交わしてしまった Must my final vows exchanged Be with him and not with you? どうすれば なあ、おい 言葉を待つ…… Were you only here To quiet my fear… Oh speak! Guide me anew. 紡がれる歌は輪唱となって、物真似師の戦場にも響く。 苛烈な剛剣の一撃をいなし続けていたゴゴの手が止まる。 「……これは……オペラ…………セッツァー、なの……?」 世界を渡り物真似をし続けてきたゴゴには、この歌がなんなのかに見当がついた。 オペラ座の演目の中でもタコとトレジャーハンターのいわくを持つオペラだ。 「キャプテン……お前は何を、いや“どこに行くつもり”なんだ……ッ!!」 アナスタシアの物真似が解れるほどに、ゴゴの中に言いようもない悪寒が走る。 この歌劇は知っている。それにまつわる、仲間たちの物語も聞いたことがある。 だが、この血を流さんばかりの絶歌は、ゴゴの中にある世界には存在しなかった。 この歌に導かれるように、ゴゴの中のブリキ大王が消失する。 自分の知るマーダーであるセッツァーさえも置き去りに、セッツァーが変わってしまう気がした。 「セッツァー……ッ!!」 「余所見をするな、“フレアが来るぞ”ッ!」 飛翔せんとするセッツァーの手を引かなければならない。 そう思って意識をセッツァーに向けたゴゴの背後で、超熱が生成される。 イスラを守り続けているストレイボウの叫びに、ゴゴが再ぎ向き直った先には、 ゴーストロードが掲げた魔剣ラグナロクからフレアが放たれていた。 ふと、セッツァーは手を止める。 どこか遠くで、自分の名を呼ぶ声がした気がしたが、爆音に掻き消えてはっきりと分からなかった。 「いいか、どうでも」 そういって再び歌を口ずさみながら、セッツァーは酒場にある全ての酒瓶を砕いていく。 大口径の44マグナムの銃弾が、この島に集められた酒をバリバリと割っていく。 トルネコを、ヘクトルを、トッシュを、アティを、ニノを、ジャファルを、目につくもの片っ端から破壊していく。 一々批評なんかしない。お前たちの酒が旨かろうが不味かろうが、これが唯一絶対の俺の酒だ。 あの沈みゆく夕陽に咲いた輝きさえあればそれでいい。他の雑味など全て無くなれ消え失せろ。 デスイリュージョンの刃が、かつてブラックジャック号のバーに並んだ酒瓶を切っていく。 ロック、ティナ、セリス、カイエン、マッシュ、エドガー、ガウ、ストラゴス、リムル、モグ。 かつて共に夢見た自由の酒も、等しく捨てていく。 瓶の切れ目から血のように酒が床に流れても、セッツァーには何の感慨もなかった。 「悪いな――――お前らも邪魔なんだよ、重くて」 これまで手抜きに薄めてきた我が夢をここから挽回する。その為には全力疾走しなければならない。 ならば過去も友誼も全て不要。後ろを向けばその分遅れる。誰かを“省みる”なんて無駄なことはできない。 セッツァーの魔法が、溢れた酒に引火する。火は瞬く間に酒場を焼き、紅き風にセッツァーのコートが翻る。 「いいぜ、ここを超えることができりゃ、俺の勝ち。だったら、全賭け<オールイン>だ」 記憶を棄てる。絆を棄てる。銘を棄てる。胸に抱くは夢だけで、その自我こそが空に続く唯一の道。 全てが燃えて果てる中で、セッツァーは己が手に持った酒を呑んだ。 舌の中で湧き上がる芳醇。かつて抱いた限りなく純粋な夢の味が、セッツァーに広がった。 ゴミ<他人の夢>も不純物<仲間>も入らない、本来の夢が、その掌にある。 ならば、今この時。 セッツァーが空で、空がセッツァーだった。 夢以外の全てを棄てる。何もかもが軽い。我が夢だけで満たされたこの空は希望そのものだ。 だから、望む。燃料<夢>はある。目的地<希望>も見つけた。だから、最後に望む。 ダリル、君の背中を追う為の翼が欲しい。 最速を追うための翼もまた最速。誰にも追いつけぬ、どんな障害もするりと抜ける翼を。 その欲望が迸ったとき、セッツァーの懐に黒き光が輝き始める。 右手に収まるのは銃ではなく心臓。日常への回帰を夢見た一人の男の、希望と欲望の結晶。 その幻想の心臓に亀裂が入る。真実に至ったギャンブラーの感情に、希望と欲望が塗り替えられていく。 希望と欲望、二つに通ずるもう一つの感情――――『夢』に、全てが支配されていく。 なんと禍々しき希望か、なんと忌々しい欲望か。だが純粋である漆喰の夢はかくも美しい。 世界の守護者たらんであるゼファーが絶対に受け入れてはならぬ美しさ。 だが、同時に欲望でもあるこのファンタズムハートは、その善悪を超越した美しさを認めるしかない。 「翼がなくちゃ、夢を見られないからな」 平和を祈ったファンタズムハートが、大空の輝いた夢に染め上げられたとき、 砕けたダイスがその心臓へと混ざり、変性していく。 希望という翼に、欲望という翼に、夢という黒き鷹の翼に、堕ちていく。 ありがとう わたしの 空よ I am thankful, my sky, For your tenderness and grace. 一度でも この想い 揺れたわたしに I see in your eyes, so intense and wild, All doubts and fears erased! 久しく絶えし輝き……『愛』を忘れぬ者よ――――我は『愛』を司る貴種守護獣。 輝きの中に浮かぶ女神の影がピサロに言う。その後光は遍く全てを慈しむかのような優しさだった。 ――――幻獣より生れし母親、魔王の娘、そして幼き未完の賢者……愛の萌芽は確かにあった。 しかし、それでも我を目覚めさせる域までは届かなかった。“この世界は、愛を認めていないから”…… この世界を司るのは憎しみという愛の同種であり対極の感情だ。 どれほどの愛を魅せられようとも、遥かな過去に愛に裏切られた憎しみの王はそれを認められない。 愛とはいつか裏切られて喪われ憎悪になるもの。そうだと魔王が信じる故に、彼女はこの島に具現できなかった。 ――――だがそなたは貫き、喪われてもここにある愛を示した。 善悪賢愚の理を超えた愛が、本来存在できない私を呼び覚ました…… ピサロの狂気に等しい愛が、彼女を具現する。 本来ならば世界の守護者たるガーディアンロードがピサロのような魔王に手を貸すことはない。 だが、憎悪と表裏一体の愛を司る彼女は、他の3柱の誰よりも魔王達を理解していた。 ――――歌うがいい、この憎悪の荒野で咲き誇る一輪の花よ。そなたの歩む道もまた1つの『未来』であり『世界』。 そなたの前にあらゆる苦難が立ちはだかる時、我が威力、果てぬ絆となりて全てを退けてみせようぞ。 愛の光が、外界のデスピサロから亀裂を走らせて漏れ出す。 ロザリーないなくとも、否、ロザリーが居ないからこそ強く強く願った愛が奇蹟を起こす。 失くさない、喪わない、忘れない、壊させない――――その願いが、急激な進化に耐えきれなかった肉体を癒す。 ――――告げよ、我が名を。そのとき、愛の抱擁となりて、激しく包み込む力とならん…… 「いしのめがみ」が砕け散ったッ! 強く 激しく こたえてくれて Though the hours take no notice Of what fate might have in store, いつまでも いつまでも あなたを追う…… Our dream, come what may, will never age a day. I'll fly forevermore! 「なんなんだ、その光は……ッ!!」 立ち上がったセッツァーから迸る忌まわしき光に、アキラのが細まる。 夢は砕いた。力は潰えた。ならばこの光は一体。 それは歌劇。運命に引き裂かれた男が、遠く離れた女を追い求める狂恋の歌劇。 「返して……アシュレーさんの光まで、奪わないで……ッ!!」 ちょこの悲痛な叫びなどどこ吹く風と、歌劇はクライマックスに向かう。 運命に沈みこんだ男の下に女の幻が現れ、己が心の在り方を確かめるのだ。 それは恋歌。届かぬ思いを、それでも届くと願いて誓う恋と夢の歌。 「それは、私が纏った力!? なんなの、それは、なんなのッ!?」 デスピサロの破片を吹き飛ばしながら立ち上った光を前に、アナスタシアは狼狽する。 ルシエドと同種の力を見間違うことはない。ならば、この力は―――― その結末は、女を取り戻さんと現れた戦士の帰還。 その終曲は、女を約束通り奪わんと現れたるギャンブラーの登場。 「もう一度、夢を見させてもらうぜ―――――――召喚ッ! ゼファー&ルシエド! Linking to the Material ―――――――――――――――Wake up, Code Z&L!」 「永遠に、ただ君だけを愛している―――――ハイ・コンバイン! ラフティーナ! Conduct a symphony ―――――――――――――Access to limitted, Code R !」 この時、一瞬、舞台は夢と愛に満たされた。 時系列順で読む BACK△144-3 瓦礫の死闘-VS黄龍・反撃は雷のように-NEXT▼144-5 瓦礫の死闘-VS究極獣・Radical Dreamers-(後編) 投下順で読む BACK△144-3 瓦礫の死闘-VS黄龍・反撃は雷のように-NEXT▼144-5 瓦礫の死闘-VS究極獣・Radical Dreamers-(後編) 144-3 瓦礫の死闘-VS黄龍・反撃は雷のように- アナスタシア 144-5 瓦礫の死闘-VS究極獣・Radical Dreamers-(後編) ちょこ ゴゴ カエル セッツァー ピサロ ストレイボウ アキラ イスラ ジョウイ ▲
https://w.atwiki.jp/rpgrowa/pages/280.html
きみがぼくを――(ne pas ――――――――――) ◆MobiusZmZg 【0】 ――――問いは、たとえある特定の事物の状態に言及しているだけで あっても、つねに主体に形式的に責任を負わせる。ただし否定的な形で。 つまりこの事実を前にしたときの無力さの責任を負わせるのである。 ×◆×◇×◆× 【1】 すべての生命は、その本質へ近付くほどに黒を帯びる。 燃やした肉が、炭と変ずるように。腐敗したものどもが、いずれ土へと還るように。 それは数多の戦い、あるいは蹂躙の過程であり、結果としても睥睨してきたはずの光景であった。 それは進化の秘法を発見し、秘匿した錬金術士どもの間で、まことしやかに語られる話でもあった。 それはいつか、耳にしてすぐに与太話だと、机上の空論にほかならないと切り捨てたものでもあった。 しかしてこの実例を、いま、魔族の王――。 いいや。たったひとりの男は、目の当たりにせざるを得なかった。 あがりどきも知らぬまま、密雨はいまだ糸と散らずに降りしきっている。 彼がひとしきりの慟哭を終えた今も、彼の周りの空間は静謐を保ったままであった。 戦場から切り離されたかのような空間のひろがりと、そこに横たわる静寂は、彼に内省をうながす。 そうして彼に、彼の行動の結果を、因果を直視させることを、けして拒ませない。 ……ここにはまるで、誰の邪魔も入らないようだ。水入りを拒絶するかのように、雨は止まない。 私雨を思わせて天より奏でられ続ける滴り(しだり)のなかで、ピサロは動かなかった。 恋しい者の死に顔から目を離せず、頬にかかる銀髪も払わない彼は、無様に息を荒らげている。 つねの冷静の欠片を取り戻した、今。身じろぎも出来ないピサロの腕の中では、まさに彼女が。 痛みをおぼえた心が求めるがままに行った抱擁に、淡紅色をした長い髪が乱れ流されたエルフの女性が、 進化の秘法を求めた魔族から近くも遠い場所で取り沙汰された『生命の本質』に近付きつつあるために。 白と黒。 闇に満ちた世界にて認識がなされる、はじまりの二色。 無彩色の雷を一身に受けた彼女は、あまりに果敢なく崩れていく。 いかに白く整った外郭を保っていようとも、実際には雷の熱量で体の内を焼かれているのだ。 緊張を失いつつある女性の口許から、口内に溜まった血のあふれる様が、本質とやらの証左である。 内蔵からの出血であろう流体は黒みを帯びて濁り、闇を思わせる粘りを帯びていた。 くすんでよどんだ赤色が膚の肌理に張り付き、しぶとくも雨垂れ落ちに耐えんとする。 それを拭うために彼女の輪郭を崩すことも、彼女の姿から目を背けることも、ピサロには選べない。 思わずながらも彼女に永別の一撃を叩きつけてしまった彼にはとうてい、かなわない。 「ロ……ザ、リー……」 ピサロがみずから名付けた四文字が、雨滴に遮られるよりも先に彼自身の耳朶を打った。 つよく焦がれて追い求めた彼女と同じに尖った魔族の耳は、優れた聴覚を有するのだ。 その耳が拾ったのは、おぼつかない発音と、軸のぶれた抑揚と、うわつき揺らいだ余韻である。 どこまでも断片化された印象が、激情を前に動きを止めた脳裏で噛み合わさる。 意図せずしてピサロの口許がいびつな上弦を描き、即座にかたちを崩した。 激情のままに叫び、地に伏さんとする細い体を、美しきものを遮二無二かき抱いて、 空が知るよしもない嵐の止んだいま、自身の声があまりに白々しいものであると思われたがゆえに。 少しく落ち着いたいま、落ち着いたことそれ自体が彼女への背信であるとすら感ぜられたがために。 ピサロの、のどがこわばる。 たんにこわばるどころか、本格的な夜を前に鋭角な傷みさえ訴えてきた。 戦闘をくぐり抜け、怒号をとおし、呪文を唱えた粘膜が、吸気にまじる硬さ冷たさを許容しかねている。 精神どころか、肉体までもが能動を拒むかのような反応に、誰よりもまず彼自身が驚いていた。 ロザリーのいない安穏など、求めるべくもない――。 そうと断ずる思考を疑いようもなかっただけに、弛緩する思考には手ひどく裏切られたような思いがした。 巧まずして露呈した自己矛盾を前に、頭の中身が飽和しかけているとも感ぜられた。 ……皮肉なことに、ロザリーの死によって生じた慟哭こそが、ピサロの心に冷水を浴びせしめている。 あふれた叫びと、叫びと向きあう時間こそは、許容量をおおきく超えた感情を浄化し、整理せしめている。 いまの彼は、自らの手でロザリーを殺しておいて憎しみに身を任せられるほど、周りが見えないわけではない。 そして、憎しみにとらわれた勇者、倒すべき存在であるユーリルの無様は彼の脳裡にも刻まれていた。 感傷と憎悪と焦燥に駆られてこの結果を招いたのだとも思えば、絶望に折れてやるわけにもいかなかった。 ならば、結局のところは。 彼が選べる道は、ロザリーが存命であったころと質的に同じである。 ピサロはおのが身を削り、追い詰め、なにかを捨てることでしか、彼女への想いを表せない。 たとえば彼女が虐げられたことに怒りを覚え、彼女がされた以上の破壊を及ぼすほどに心を燃やして。 たとえば彼女を喪ったことに対して、喪失したものの価値を示すに相応な質量の悲嘆で魂をゆがめて。 辛く悲しく苦しいと、笑えなくなってしまう。 救いたかった者から真っ直ぐな言葉をかけられてもなお、そこだけは変わらない。 ロザリーがなにかを喪ったというのなら、ピサロは彼女に、彼女の面影に与えたいのだ。 与える過程で自分がなにかを喪おうとも、彼女は、それ以上になにかへ心を砕けるのだから。 ならばこそ、何かを壊すことでしか思いを表せなかった自分は、彼女以上に心を砕かねばならない。 真に彼女がいとしいのなら、自身のたましいをさえ砕かねばならないと信じさえしていたのだ。 ……しかして今回ばかりは、彼もひととき、立ち止まってしまった。 実態が見えないからではなく、むしろ、おのれの本質に突き当たったがために。 ほかでもないロザリーの言葉こそが、彼が感情のままにおのれを捨てることをさせない。 それでいてピサロの側は、彼女を喪った事実を埋めるだけの量感をもった思いを、犠牲を求めている。 誰よりもまず、愛しき者を屠ってしまった自身にこそ、なにかを捨てることを求めてやまないのだ。 この矛盾に、愛を注ぐべき者との落差に気付いたがゆえに、足を止めた彼は、動けない。 自身の基底を衝く欠損に直面し、思いあぐねた魔族は、すでに喪われた救いを求めて瞑目した。 視界が闇にと染まる刹那、木陰に隠れていた花の残骸が視界の端へ収まり、眼裏に素朴な白がにじむ。 頬にさす雨垂れ落ちをまえに、あれは摘まれることで嵐を呼ぶ、雨花であったのかもしれないと。 思考が主の意に反して、わずかに逃げを打つ。どうでもいいと思えることこそ、切り捨てられない。 冷静さの軸をなす俯瞰を取り戻すべく眉根を寄せても、視覚は無為に散ったものに支配されたままだ。 車軸の雨に散らされた花弁は、ピサロの意識で葉脈のそれより細かい組織を透かせてくずれ、 (花――?) まったく別の方面から、彼の脳裏にひらめきがくだった。 天地が鮮やかに見えよう戦慄とともに、情報の欠片が結ばれ開闢にも似た流れが生じる。 進化の秘法に関する文献や伝承を調べていた際に耳にしたことのある口伝が、すべてを切り開く。 それは、千年に一度だけ開くといわれる貴重な花。 《世界樹の花》にまつわる話だ。 錬金術士の論のように与太話とするどころか、今の今まで積極的に忘れていたのは、ひとえに花が咲く場所に拠る。 地上より生まれて、はるかな天空にとつながる樹を、魔族の王であった彼は心から忌んでいたのだ。 あれが地上を俯瞰し、魔族を滅ぼす勇者を生んだ天空の城へ通ずる道というだけで疎ましい。 事実、天空人による干渉を嫌った彼は、一度はあの樹を焼き払おうとも考えていたものである。 しかして結局、彼には世界樹を焼くことなど、出来はしなかった。 魔族の王にとっては目の上のこぶとなんら変わりのない、ただひとつの大樹。 あれは森に生きるエルフ、ロザリーにとっては父にして母とさえいえるものなのだから。 彼女の優しさを知るがゆえに、ピサロには、彼女の愛するものは侵せないと思われた。 ひとたびそう感じてしまったなら、彼の意識は妥協点や着地点を探す方に水が向いたものだ。 そもそもの話、人間を蔑視する彼も、樹木や地上の世界そのものまでを憎んでいたわけでもない。 天空人が地上に降りることが罪であれど、勇者が天空に至ることのほうが罪でないのなら、話は簡単だったのだ。 天より来たるかどうかも分からない脅威を警戒するより、必ずや地上に現れる敵手を滅ぼせば問題は無い。 ロザリー本人から口伝を耳にしていれば話は別だったが、それこそめぐり合わせの問題であった。 そして、いま問題にすべきものは、めぐり合わせの妙でも皮肉でもない。 数瞬の回顧を終えた魔族のなかでは、彼に打たれた様々な点が線につながりつつある。 最も大きな点、思考の転換点はふたつというところだ。 ――どのような薄汚い欲望でもよい。何でも望みを叶えてやる―― ひとつは、憎悪のままに人間どもを睥睨していた魔王の声。 あの闇のなかで、オディオが口にした言葉だ。 ――ロザリーさんは、いつ、亡くなられたのですか?―― もうひとつは、勇者の仲間であった占い師の言。 旋風でもって竜巻をいなした人間が投げかけてきた問いである。 連想と黙考により、暗河(くらごう)のごとき認識に光が当たった。 鮮明の度合いを増す自身の思考を受けて、ピサロの口許がふいに、ゆがんだ。 上弦をさえ作らない口角からこぼれたのは、乾きに渇いた哄笑である。 ……こうなれば、人間の言葉を信じないというわけにはいかない。 いかに自身が滑稽であろうとも、下等な人間どもと同列あるいはそれ以下に立とうともだ。 《世界樹の花》を使えば、ロザリーはいまひとたびの生を享けることがかなう。 それが千年に一度の奇跡でも、占い師との間にあったような時間軸のずれについても、おそらくは問題などない。 ずれを生んだであろうオディオにならば、いかようにも修正しうる。 あの魔王は……自分が一面に共感を覚えた者は、おのが前言をひるがえしなどしない。 冷静さを保った頭には、その念がおためごかしだとしか思えず、笑いが深まった。 だが、そうと信じていなければ、ピサロはロザリーに報いる機会を永遠に無くしてしまう。 こちらが辛く悲しく苦しいと、ロザリーは笑えない。 しかして彼女がいないなら、ピサロはずっと辛く悲しく苦しいままだ。 彼女が最期に自身を断罪しなかったことが、なおのこと魔族の胸を衝き上げる。 それほどに思える相手を手にかけてしまった事実が消えないことを分かっていても、 それほどに思われていた彼女が、なにをされて喜べるかを理解していても、 せめて、この手にかけてしまった彼女に、この自分に出来る方法で、力を尽くしたい。 その行為に注力することで、彼女に憎まれようとも、悲しまれようとも……構いはしない。 彼女が継ぎかけた言葉も聞けず、憎まれることさえかなわない現状よりは、よほどましなのだ。 時間が解決するなどと、少なくとも自分は思わないが、そうすることでわずかなりと。 (愚かとされるは、私も、同様だな) わずかなりと、報いを受けたい。 そうと考えていた自身を、若き魔族は思うさまあざ笑った。 思えば、ロザリーを殺した者どもを蹂躙した初手から、自分は変わらなかったのだ。 彼女が生きていることを暗喩された後も、彼女に会いたい、生きて欲しいと思いながら……。 ピサロのやったことといえば、壊すことのみだ。彼女を生き残らせる方法など考える余裕もなかった。 ロザリーを庇護したいと思ったのなら、どうして後先も考えず、体力や魔力を消費してしまったか。 彼女を守るべきとしていたのなら、どうして、自分と彼女が生き残るように動けなかったのか。 いまから出来ることといえば、彼女の名残りを、これ以上傷つかないようにするだけではないか。 重なる自問は、自分を責めても実になることなどない。そうと分かってもなお止まらない。 けれども、激情を上下する肩に押し込める、その前から。 彼が、彼女をいだきつづける手のやわらかみだけは、変わらない。 そして絶え間ない花降しのなか、魔族は反射的に笑みを収め、息を吸い込んだ。 血のように紅い双眸が、玉水とは違う輝きを――。 輝きの根源たる、ちいさな結晶をこそとらえたがゆえに。 水に冷えて赤みを深めた輝きを目指して、ピサロの右手が伸びた。 端正な容貌と裏腹に節の目立った五指が向かう先は、いとしき者の空知らぬ雨。 ロザリーが最期に遺していった、ひとしずくのルビーの涙だ。 雨夜の星を思わせるきらめきを求めた指先が、しいて引き締めた頬を裏切るほどにふるえている。 彼の胸にも、この世界にも美しきものを遺していった彼女が、 土に埋まり、やがては泥に還る光景をまったくと想像出来ないまま、 指関節が伸び、指先に意識が向かい、末端にまでとどく血流が脈を刻んでいると知れ、 神経の集中した部位で、雨のまえにも冷え切らない自身の体温を感じた直後の、 接触の瞬間。 ピサロの指に触れた涙は音もなく砕け、花よりおぼろな光を散らした。 ほどなくして、黒い外套が北雨吹の一陣に押され、主の体にしなだれかかる。 明らかな指向性をもって落ちてきた天水に打たれたピサロの瞳は、鏡面のごとく色を見せない。 黙してロザリーの遺骸を抱えなおし、伏せたまぶたで紅い瞳に浮かんだ色を抑える。 細くとも意識をなくした体を支える両腕より、裏地に毛皮を張った防寒具こそが、いやに重かった。 ×◆×◇×◆× 【2】 守勢にまわっている自分たちが、あえて相手を押し切る。 押し切られるまでに押さえ込むのなら、今より他に機などない。 ユーリルと刃を交わすイスラがそうと判断した理由は、守るべきものの不在であった。 ピサロにとっての大切な者。 先刻まで気絶していたはずの、ロザリーがいない。 紋章使いの少年によって守られた直後、それに気付いた三人は決断を迫られたのだ。 すなわち、姿を消した彼女とピサロを追うために戦力を分割するか、このままユーリルを押し切るか。 意図しなかった増援である青年がこの場に留まることでユーリルの怒りを煽る可能性はあれども、ロザリーならば。 彼女の死の可能性にさえ、ピサロがあれほど激していたのならば。 『待てよ! いまロザリーになにかあったらッ!』 『二手に分かれて泥仕合を続けて、共倒れになりたいのかい?』 それを類推出来てなお、アキラとイスラの意見は大きく割れた。 剣戟をいなし、かわしつつの第一声で、改めて互いに見えるものが違うと判断出来るほどに。 かりに彼らが二人でいたなら、一対一の平行線をたどり、結果として消極的な判断を迫られただろう。 あるいはさらに悪い結果、時間切れによる判断や選択そのものの消失をすら招いてさえいたかもしれない。 守れと仰せつかったアナスタシアの……殺しをいとわない者の意見は、イスラもアキラも求めはしなかった。 『あの魔法……を、相殺すれば。当面の問題は剣だけです。 彼がどういう人物なのかは知りません。ですが脅威は、押さえうる機を逃してはいけない』 均衡あるいは緊張を保った、彼らの天秤。 それを傾けたのは、きらめき輝く刃と盾で彼らを守った者である。 ジョウイ。マリアベルからアナスタシアを守るように依頼されたという彼の声音も、緑がかった瞳も 穏やかであるとみえたが――最後の一節をつむぐに至って両方が厳しさを増す。 数多の鉄火場をくぐり抜けた者のそれといえよう眼光に、言葉を切った一瞬、宿ったのは父性か。 剣戟を受けて視覚の取り込む情報こそ変じたものの、柔和と厳格の相半ばした印象はイスラの胸にも残る。 慎重の奥に懊悩の……イスラとて嫌になるほど覚えた感情の名残りをにじませていながらも、まだなにかがあると 言わんばかりに澄ました顔つきは、正直言って気に入らない類のそれだと感じてはいた。 けれども同時に、援護をうけた胸にはある種の鈍感がさしたのも事実である。 無関心と紙一重の感慨が胸へとさすに至って、イスラはユーリルの剣にこそ集中した。 敵意でないものならば好感とも言えようほどに単純化された思いは、戦場特有のそれといえる。 彼は、身を挺してアナスタシアを、自分たちを守ったのだ。ただそれだけで、命を、あるいはもっと大切な なにものかを賭さねばならない戦場における彼の行いは、好感を抱くに値するものであった。 アキラも、その思いを肌で感じていたのだろう。イスラの返した剣に超能力のひとつ、スリートイメージを重ねて ユーリルの感覚を撹乱しながら、胸をあえがせる勢いを借りて声をしぼり出す。 『悔しいけどよ……無理を通したって、たぶん、俺の力じゃアイツは折れねー』 焦点があてられたのは、サイキッカーのもつ力であった。 ユーリルとピサロを止めるための札であったレッドパワー、スリープ。 マリアベルの力について説明を受けた彼らは、仲間のもつ類似の札についても話を聞いている。 正確には、アキラが口の端にのぼらせたヘブンイメージが、この状況と相手にそぐわないという話をだ。 『相手を安らかな心地にさせて眠りを呼び込む』のが、アキラが有する力の原理。 相手の心に働きかける――すなわちある種の双方向性を保持している以上、単純に魔力の押し合いで結果が 出されるようなものでないことは想像にかたくない。 力を受けた者がアキラの展開するイメージを信じられなければ、精神力を浪費するだけに終わってしまう。 この性質を巧く使えば、相性の良い相手にはとことん強い技ともなろうが、相手はユーリルなのだ。 ここまで打ちのめされた結果、周囲の声を聞き入れなくなっている、彼なのだ。 それが超自然の力によるものであろうとも、安楽な場所など信じられるはずもない。 彼を燃やし、摩耗させるであろう激情と対極にある、安らかな心地など想像すらかなうまい。 『目的を達せられれば! 手段は――問題じゃないさ』 イスラの言葉に、左右に散っている二人が彼の手許でひるがえったものを見た。 袈裟斬りをいなした魔界の剣。反り身の得物は片刃であり、肉厚すぎるということもない。 『……しゃあねー。分かったよ! 打ちどころだけは間違えんなッ』 『言われるまでもないね』 喧嘩殺法とはいえ体術を修めているアキラが、いち早くなにかを察したようだ。 投げ出すようだが優しいひと言で、先刻言ったように、イスラの背中を守る位置につく。 三人のうちで面制圧と力の相殺に秀でるジョウイは、状況を俯瞰できる最後衛にと身を置いたようだ。 そして、最もわりを食う前衛についたイスラは、ユーリルと剣を交わしている。 剣を一合重ねるほどに、彼は、胸の奥底から浮上した共感と嫌悪感を強めていた。 アナスタシア・ルン・ヴァレリア。 どうにも気に入らない少女の問いで受けた不全感は、彼とて実感している。 彼女の言葉をきっかけに低くゆがめられた、あるいは彼がみずからゆがめてしまった自己の評価こそが、 いまのユーリルから他者に対する基本的な信頼感や安心感を喪わせてしまっているとも想像がつく。 けれども自分の欲望を達したいのに、自身を見据えることすら厭うている彼は……本当に無様だ。 彼の思い、それ自体には深く共感出来るからこそ、イスラには少年のありようこそが見るにたえない。 ユーリルがみせる、在りし日の自分が世界を呪ったのと同じ姿に、ともすれば苛立ちを抑えられなくなる。 そのくせ、彼にはユーリルを見捨てられもしないのだ。 相手のなかに自分を見出して、なおも突き放しきるのは、イスラには出来ない。 死にたい。死んだほうがいい。死ぬしかない。死ねば、死んだら――。 感情の好悪は別として、そうと思いつづけた自分は、自分だけは。 ずっと、自分を見ていた。疎んで、貶めつつも大事に抱え、見捨てなかったのだから。 (本当、皮肉も冗談も抜きで、説明するのも嫌になるけど) 防御を意識しないユーリルが、上段から逆落しじみた一閃を放つ。 常人離れした膂力を誇るがゆえに単純化の際立つ軌道を、少年は見切った。 直線に近い縦軌道に剣の峰を合わせ、手首の回内で繰ってみせた刃でもって力の向きを逸らす。 運動、ひいては筋肉の伸びと弛緩に伴い、双方の肺からはするどい呼気が押し出されていた。 感覚が次の一手を志向する刹那、鼓動をつづける体は自動的に夜気を取り込まんとうごく。 それはユーリルも、剣を構えた肩を大きく上げて肺をふくらませたイスラも同じだった。 吸気を体全体に満たした黒髪の少年は、つねより張って少しく高めに響いた、 声をつむぐ。 「言っても分からない。さっき、確かにそう言ったね」 彼が発するは、かつての自分が浴びせられ、包まれたものだ。 自分と向きあったアティが、なによりも大事にしていたものだ。 イスラは、言葉を、彼女たちと真逆の方向につむぐことをこそ選び取らんとして。 意識的に、声を張る。 「じゃあ、同じことをシンシアに、……彼女には伝えられたのかい?」 張っていようとも――。 シンシア。 イスラ自身の内奥で消化がなされていない、だれかの名前。 そんな単語をわけ知り顔でつむいでみせる行為は、いやに不快なものだった。 平然を保ったまま、強い語調で押し通そうとした少年の喉奥が、幾度もこわばりかけるほどに。 けれど、最初の一歩で揺れてはいけない。確証がないことを悟られてはならない。 「うるさい! お前に、お前たちに僕のなにが分かるッ!」 「少なくとも、キミが望むような分かり方は出来ないだろうね。そこだけは認めておくよ」 また、彼になまなかな夢を見せるわけにもいかない。 本音を言えば見せたくもない。 呪うしかないと思い込むほどに閉塞したユーリルの心を推し量れてもだ。 様々なものを奪われ続けていた気持ちが分かっても、イスラには、与えられない。 与えたこともなければ、与えようとも思えないほど、彼が持ち得たものは。 持ち得たと、思えたものは……彼には少ないと感じられてならないのだから。 健康な体。普通の食事。安楽な時間。他者との触れ合い。たんなる日常。 そんなものすら世界から与えられないのなら、この手で奪いにいくしかなかった。 与えられなかったと決め込むほどに、自分にかけられたものなど、なにもないと思っていた。 そんな、確信じみて屈折した思いを。一面における甘えを抱え続けていたのがいまの彼だ。 自身の認知へ盲目にすがってさえいたのが、ここに立っているイスラ・レヴィノスだ。 姉に、アティに愛されていたことが分かっても、底にあるものが一朝一夕で変わるわけもない。 おのれの渇きと付き合うだけで手一杯だった自分が、一足飛びに他者の渇きを癒せるわけもない。 二人の思いを受けた自身を育てきる時間もなくここに来た現状、あるいは、もっと先になっても――。 本質的にはおのが渇きしか癒そうと思えないでいた自分に、過剰な期待をかけられるのは。 自分のごとき者に寄りかかられて、無様を、醜悪な姿を至近で眺める羽目になるのはごめんだった。 だからこそ、イスラは冷淡かつ現実的な言葉でもって、ユーリルと距離を保つ。 「でも、分かってもらえないことに対して覚える気持ちは、僕にも心当たりがある。 それで、分からなくもないなんてことが……言えたのさ」 その上で、彼は言葉をつらねた。 強めていた語勢をわずかにゆるめ、相手の放った薙ぎ払いに対処する。 穏やかとさえ言える動きで反り身の刀身を直剣の腹に当て込み、受け流しとともに前へ踏み出す。 体力の限界を忘れた相手を一気に押し切る。そのために必要な隙を……果たして、作れるか。 力でかなう公算が低いのなら、言葉で。つらなりつむぐ思いとやらで、作れるだろうか。 盲目の、ある意味では安楽のうちにある相手に、自分は、一時でも切り込めるのか。 「だから訊けもする。他人に分かってもらうために、キミはなにか努力をしたのか……。 自分がなにを思っているか、なにを感じたか――キミは、彼女たちに分かってもらおうとしたのか」 鍔迫り合いに持ち込んだイスラの心中で、自嘲がこぼれた。 いったい、こんなことをどの口が言うのか。 イスラの死にたさを、その原因を知り得ない二人の様子がたまらない。 ……もっと、雨が降ればいい。 緩やかにユーリルを囲みつつあるアキラとジョウイを視界に入れた少年は、つよく思う。 驚きから納得に遷移した、彼らの表情。僕の背中を後押しするような首肯なんか。 剣を受け流すのでなく、いなすのでもなく、真っ向から受け止めてしまった僕の姿なんか。 けぶり、砕けてあまぎる雨に。 隠れていてくれ。 精緻な技を問われる反面、どうにも焦れる数瞬――。 あらぬ方へ流されかけた心と剣に、イスラは意識を傾けなおした。 重心の動きに合わせて刃を押し込み、間髪を入れずに押し返される、波が止まない。 「言っただろッ、僕は、世界を救った! 戦いたくもないのに、必死で、頑張ったのに!」 「そうじゃない。いま問題にしているのは、そういう努力じゃない。 言わなきゃ伝わらないことを、言いたい相手に言えたのか。言おうとしたのか。そう聞いているんだ」 一進一退を暗喩するかのような一合を前にして、巧まずして語勢が強まった。 するどさを増す舌峰が、彼自身に追い討ちをかけるようだ。 ――アティのようになりたかった。 泣きに泣いたときにあふれだした本音は、ある意味では正しいのだと痛感する。 なり“たかった”。 無意識につむがれた過去形の表すとおりにか、イスラは、アティとあまりにも違う。 この乖離に、十数年をかけて作られた埋めようのない落差に、苛立ちと諦観を覚えるほどに。 当然のように諦観を交えんとする心のありように落ち着く反面、なにか、許せなくもある。 それでも、ここまで自分の急所を、やわらかな部分をさらしたからには退けなかった。 鍔迫り合いを膂力でもって押し切られようとも、すべての動きを支える体幹までは崩させない。 そして――。 「そうやって、時間を稼いで……アナスタシアを逃がすんだろッ!」 「違う!」 たとえ弱みを見せていなくとも、この単語だけは全力で封じるべきだった。 アナスタシア。まるで魔法の言葉であるかのような言いように、イスラは声を荒らげる。 彼女にこそ自身のなにものかを壊されたのだろうに、どうして彼女に行き着くのか。 どうして、彼女以外の救済策を見ようとしないのか。どうして、どうして。 どうして死を救いと信じ、思考の果てに死を誇りとするに至った自分の、出来損ないのように思考を展開するのか。 ぴしゃりと言い切ってなお残る胸のむかつきを、少年は続いた縦斬りをいなす作業に注力し、逸らす。 この、盲目そのものといってよい無知と、無理解と、思い込み。 不快で、嫌でたまらない思いを吹き払う言葉が、なによりも自分にこそ欲しい。 「――家族だって、僕がなにも言わなければ! 僕がなにを思っているかなんて、とうてい知り得なかった。逆もまたしかりだったさ!」 その一念が呼び込んだものは、アズリア・レヴィノスの影だった。 姉である彼女と、彼女と同じ軍属であったアティ。 あの二人に刃を向けさせるために、自分は、思うさま二人の甘さを罵った。 罵られた姉は、弟の真意を汲み取れなかったことを謝り、一時とはいえ彼に殺されようとさえした。 人は言葉でいくらでも本心を偽れるものだと前置きしていた、イスラ・レヴィノスの内心を知らずに。 知らないままに命を投げ出せる精神が、きっと、彼女が自分の家族たる所以だった。 知らないままに思いを砕けるところが、きっと、自分が姉に反撥出来た一因だった。 自嘲などしている暇もないというのに、崩れるように剣が軽くなったのは、この時である。 受け流された剣筋ではなく、この言葉にこそ、ユーリルは腰を泳がせた――。 「《勇者》は、泣いちゃ、いけなかったんだ! 泣くような《勇者》なんて、誰にも望まれやしないッ! だから、それなら僕は……もう、そんなものは捨てたんだ! 捨てた、のに――ッ!」 次の一閃は、意図したかと思われるほどに大きな風切り音を残して振るわれた。 吹き払うことなどかなわないと思われた怒りに、《勇者》という語が油を注いだかのようだ。 けれども。 くしゃくしゃになったユーリルの顔は、火の付いたように。 まるで、今にも泣き出しそうな子どものように、歪んでいる。 それほどに心を動かしめたなにものかを、彼はひらめかせた剣にと注ぎ込む。 雨を帯びたる少年の衣服は、髪は、肌はいまだに、紅い。 ×◆×◇×◆× 時系列順で読む BACK△112 光の『英雄』、闇の『勇者』Next▼114-2 きみがぼくを――(ne pas céder ―――――――) 投下順で読む BACK△113-5 ――トゥーソードNext▼114-2 きみがぼくを――(ne pas céder ―――――――) 109-3 夜雨戦線 -Emotional Storm- ユーリル 114-2 きみがぼくを――(ne pas céder ―――――――) アナスタシア アキラ イスラ ジョウイ ピサロ ▲
https://w.atwiki.jp/rpgrowa/pages/130.html
時間帯 朝 午前 昼 定時放送 No. タイトル 作者 登場人物 場所 【一日目 朝】 060 心の行き着く先 ◆6XQgLQ9rNg ロザリー、ニノ、マリアベルサンダウン、シュウ、カエル J-9 城下町にある宿屋I-9I-8 西部 061 Avengers ◆iDqvc5TpTI リン、ミネア、アティ、ピサロ C-7 062 セッツァー、『山頂』で溺れる ◆Rd1trDrhhU トッシュ、セッツァー D-7 地下水路入口D-6 地下にある城 063 ビッキー、『過ち』を繰り返す(前編)→(後編) ◆Rd1trDrhhU ルッカ、ビッキー、ゴゴリオウ、ジョウイ、ケフカ E-9 花園北の城(フィガロ城) 064 ボボンガ ◆iDqvc5TpTI マッシュ、高原、クロノ G-2 平野北東部 065 アズリア、『熱』に触れる ◆Rd1trDrhhU エルク、アズリア無法松、イスラ B-8 北西部B-9 中央部H-3 南部 067 トゥルー・ホープ(前編)(後編) ◆6XQgLQ9rNg アキラ、カノン、ルカ・ブライト C-9 森林C-8 神殿周辺 068 ヘクトル、『空』を飛ぶ ◆Rd1trDrhhU ブラッド、ヘクトルアナスタシア、ちょこ H-6とH-7の境 森H-6 西部 071 暗殺者のおしごと-The style of assassin ◆SERENA/7ps エドガー、フロリーナ、シンシア、ジャファル A-6 村 壽商会入口 ▲ No. タイトル 作者 登場人物 場所 【一日目 午前】 066 カエルとシュウとストレイボウと永遠を背負いし者亡き者に贈る鎮魂歌Justice ~それぞれの正義~Alea jacta est! ◆SERENA/7ps カエル、ストレイボウシュウ、サンダウン、ニノマリアベル、ロザリー I-9 城下町I-9 城より西I-9 宿屋??? 069 時の回廊 ◆E8Sf5PBLn6 ジョウイ、ビクトールルッカ、カエル、魔王 E-9 花園E-8とE-9の境 森G-8とH-8の境 森F-7 遺跡(アララトスの遺跡ダンジョン50階) 070 風雲フィガロ城 ◆iDqvc5TpTI トッシュ、シャドウゴゴ、リオウ、トカ B-4地下 フィガロ城C-5北西 古代城への洞窟 072 曇りのち嵐のち雨のち―― ◆iDqvc5TpTI アシュレー、セッツァー D-7 074 ユーリル、『雷』に沈黙する ◆Rd1trDrhhU ユーリル、マッシュ高原、クロノ D-2とE-2の境 075 Trust or Distrust ◆6XQgLQ9rNg リン、ミネアアティ、ピサロ C-7B-7 森林C-6 森林 076 “剣の聖女”と死にたがりの道化 ◆iDqvc5TpTI イスラアナスタシア、ちょこ I-5I-5浜辺 084 心の行く先 ◆xFiaj.i0ME マリアベル、ロザリー、ニノ F-1 教会 ▲ No. タイトル 作者 登場人物 場所 【一日目 昼】 073 シュウ、『嵐』に託す(前編)→(後編)サンダウン、『花』を見守る ◆Rd1trDrhhU シュウ、サンダウンビッキー、ケフカ I-8 荒野 077 機械仕掛けの城での舞踏剣豪と影と輝ける星と ◆6XQgLQ9rNg トッシュ、ゴゴ、リオウトカシャドウ C-5地下北西 移動してきたフィガロ城内部制御室周辺C-5地下北西 移動してきたフィガロ城制御室C-5地下北西 移動してきたフィガロ城地下 078 七頭十角 ◆iDqvc5TpTI ルカ B-10 ヘケランの洞窟 079 たったひとりの魔王決戦約束はみどりのゆめの彼方に ◆iDqvc5TpTI ジョウイ、ルッカ、ストレイボウカエル、魔王、ビクトール G-8 森林F-8 荒野 080 メイジーメガザル(前編)→(後編) ◆jU59Fli6bM アキラ、ミネアリン A-5村 チビッコハウス寝室A-5 村 チビッコハウス 081 奔る紫電の行方、燃える炎の宿命(さだめ) ◆iDqvc5TpTI 松、アズリアジャファル、シンシアピサロ、エルク B-7クレーターB-7B-6 082 勇者と野球しようぜ! ◆SERENA/7ps ユーリル、マッシュ高原、クロノ D-1港町中央部D-1港町東部にある民家 083 どこを向いても奴がいる ◆KGveiz2cqBEn アティ、セッツァー D-6 北東部 085 ノーブルディザイア ◆SERENA/7ps ちょこ、アナスタシア I-3 浜辺 086 使い道のない自由 ◆SERENA/7ps ヘクトル、ブラッド、イスラ I-6 橋付近 ▲ No. タイトル 作者 登場人物 場所 【第二回定時放送】 087 第二回定時放送 ◆SERENA/7ps オディオ ??? INDEX 時間順 ~第一放送 ~第二放送 ~第三放送 ~第四放送 ~第五放送 ~第六放送 ~第七放送 投下順 000-050 051-100 101-150 151-200 ▲
https://w.atwiki.jp/vocaloidchly/pages/4660.html
作詞:涼風P 作曲:涼風P 編曲:涼風P 歌:巡音ルカ・MEIKO 翻譯:rufus0616 翻譯建議:cyataku桑 所有名字都有其意義。 天空的安娜斯塔西亞(註1) 那曾是我們的夢想 那曾是為了尋找遙遠新天地 而建造出來的船隻 人們為它冠上充滿希望的名字 直到昨日還待過的 小小家園 一定會消失不見 連同寶物一起 希望它化身為橋樑 引領我們走向嚮往的未來 寄予這樣的厚望 為船取了「安娜斯塔西亞」這個名字 我們早已知悉 不久以後的未來 在那逃難的船中 充滿希望的名字失去了光環 直到昨日還存在的 溫柔的你 一定也會消逝而去 不留任何名字 (遠方似乎 有人在呼喚我) (不知不覺中 我流下眼淚) 希望它化身為橋樑 引領我們走向嚮往的未來 寄予這樣的厚望 屬於這艘船的「安娜斯塔西亞」 就將 這個名字獻給你吧 為了讓這份心意有傳達給你的一天 我在狹小的船中 高聲歌唱 此為近未來都市系列第29首 鐵巨人系列第6首 第28首「One」翻譯連結 第30首「ACID RAIN」翻譯連結 作曲者blog 上的故事說明摘要: ●關於故事 這世界總有一天會容納不下人類。 為了因應那天到來,人們便計劃製造巨大的船隻。 那艘船名叫「安娜斯塔西亞」,人們為它取了充滿希望的美麗名字。 不知何時開始。 那艘船竟然成了我們逃難的地方。 話說回來你叫什麼名字? 你現在也依然孤孤單單地待在星球的某個地方吧? 如果可以與你重逢, 我將把屬於這艘船的名字──「安娜斯塔西亞」獻給你。 宣傳網站上的故事說明: 安娜斯塔西亞 你我留在人類無法生存的星球。 心中隱隱約約有種預感,我不想見到的救援會到來。 希望它化身為橋樑,引領我們邁向嚮往的未來──背負這樣的心願而被建造的太空船,如今只不過是逃生的場所罷了。 『安娜斯塔西亞』 你才配得上這個充滿希望的名字。 註1:「安娜斯塔西亞」,英文拼音為「Anastasia」,俄語拼音為「Анастасия」,希臘拼音為「Αναστασία」,在希臘文中,「安娜斯塔西亞」有「甦醒/復活的女性」等意思。 註2:根據涼風桑的訪談,其實鐵巨人本身是有名字的,他的本名是「ジャッジメント」,翻成中文的意思是「審判者」。 101.09.04 修改「直到昨日還存在的」這處,原來是翻「直到昨日陪伴我的」,雖然歌詞本身就常有省略的情形,但原來的翻法似乎意譯還是開太大了,所以試著換另一種翻法。 另外也潤飾「昨日まで居た小さな家も」這句原本翻譯
https://w.atwiki.jp/rpgrowa/pages/73.html
◆iDqvc5TpTI 014 HUNTER×HUNTER 032 ですろり~チカラ~ 036 剣と炎と召喚師 038 白黒パッチワーク 040 BIG-TOKA SHOW TIME 041 夜空 044 これが僕の望む道 047 勇者の強さ、人の弱さ 049 傍らにいぬ君よ 050 三人でいたい 054 灯火よ、迷えるものを導け 057 嘲律者 061 Avengers 064 ボボンガ 070 風雲フィガロ城 072 曇りのち嵐のち雨のち―― 076 “剣の聖女”と死にたがりの道化 078 七頭十角 079 たったひとりの魔王決戦 約束はみどりのゆめの彼方に 081 奔る紫電の行方、燃える炎の宿命(さだめ) 090 グリーン・デスティニー BLAZBLUE DARKER THAN BLACK 092 迷い子 095 ですろり~イノチ~(前編)ですろり~イノチ~(後編) 096 僕は泣く 102 アシュレーのパーフェクト首輪教室 106 届け、いつか(前編) 届け、いつか(後編) 113 憎悪の空より来たりて 正しき怒りを胸に 我等は魔を断つ剣を取る 汝、無垢なる刃、デモンベイン ――トゥーソード 115 ハッピーエンドじゃ終わらない 116 闇からの呼び声 118 ただ君だけを愛してる 120 泣けない君と希望の世界 122 第四回放送・裏 123 Re:どんなときでも、ひとりじゃない 131 救われぬ者 救われぬ者(中編) 救われぬ者(後編) 人間が大好きだった壊れた物真似師の唄 人間が大好きだった壊れた物真似師の唄(後編) Salvere000 全てのキミの魂の詩 135 第五回放送 140 抗いし者たちの系譜-再始の聖女- 抗いし者たちの系譜-逆襲の魔王- 抗いし者たちの系譜-虚構の物真似師- 143 堕天奈落 145 さよならファイアーエムブレム さよならファイアーエムブレム(後編) 【キャラクター登場率・登場回数】 +開示する 原作 登場率 内訳 【キャラクター登場率 45+1/54+1】 LIVE A LIVE 5/7 アキラ、高原日勝、サンダウン、ストレイボウ、無法松 ファイナルファンタジーVI 5/7 マッシュ、セッツァー、シャドウ、ゴゴ、ケフカ ドラゴンクエストIV 5/7 ユーリル、ミネア、シンシア、ピサロ、ロザリー WILD ARMS 2nd IGNITION 全員登場 アシュレー、リルカ、ブラッド、カノン、マリアベル、アナスタシア、トカ 幻想水滸伝II 全員登場 リオウ、ナナミ、ジョウイ、ビクトール、ビッキー、ルカ ファイアーエムブレム 烈火の剣 4/5 リン、ヘクトル、ジャファル、ニノ アークザラッドⅡ 4/5 エルク、シュウ、トッシュ、ちょこ クロノ・トリガー 4/5 クロノ、ルッカ、カエル、魔王 サモンナイト3 全員登場 アティ、アリーゼ、アズリア、イスラ、ビジュ 主催者 1/1 魔王オディオ その他 -- ロードブレイザー@WA2 【キャラクター登場回数】 7回 2人 アナスタシア、ゴゴ 6回 6人 ジョウイ、ちょこ、魔王、ストレイボウ、イスラ、カエル 5回 3人 クロノ、ユーリル、アシュレー 4回 8人 アキラ、ヘクトル、マリアベル、トカ、ルカ、トッシュ、クロノ、ピサロ 3回 3人 オディオ、ニノ、ルッカ 2回 17人 無法松、高原日勝、マッシュ、シャドウ、セッツァー、ケフカ、ミネア、ロザリー、ブラッド、カノン、リオウ、ナナミ、ビッキー、リン、ジャファル、エルク、アティ 1回 8人 サンダウン、リルカ、シンシア、ビクトール、シュウ、アリーゼ、アズリア、ビジュ 歩く危険人物製造メーカー。繋ぎに優れ、多人数もさばける -- 村人A (2008-10-17 20 03 35) 現時点での投下数トップ書き手さん。繋ぎが多めだが「夜空」のような燃える話も書くお方 -- 名無し (2009-03-13 20 04 08) ・ひたすら繋ぎに徹するかと思えば意表をついたクロスオーバーがおいしいド派手なバトルもこなす人。「三人でいたい」ではナナミ、ルカ、そしてゴゴの描写がそれぞれ際立って素晴らしいものだった -- 名無しさん (2009-07-24 15 29 37) 投下数トップで,クロスオーバーの巧みな書き手氏.繋ぎ,ギャグ,考察,バトルと幅広くこなす.個人的お薦めは『三人でいたい』 -- 名無しさん (2010-06-09 21 49 58) 繋ぎ書き手かと思ったらその実クライマックス書き手だった人。はたまたジョブチェンジでもしたのだろうかw ゴゴや日勝などキャラクターにらしくかつ独特の味わい深さを与えるのが特徴。クロスオーバーもうまくそんな手があったのかと感心することしきり。お勧めは最新作のデモンベイン五部作 -- 名無しさん (2010-07-10 20 11 04) 名前 コメント ▲
https://w.atwiki.jp/gods/pages/97424.html
アナスタシアユーリエヴナスモレンスカヤ(アナスタシア・ユーリエヴナ・スモレンスカヤ) モスクワ大公の系譜に登場する人物。 関連: ユーリードミトリエヴィチ (ユーリー・ドミトリエヴィチ、夫) ヴァシーリーユーリエヴィチコソイ (ヴァシーリー・ユーリエヴィチ・コソイ、息子) ドミトリーシェミャーカ (ドミトリー・シェミャーカ、息子)
https://w.atwiki.jp/rpgrowa/pages/32.html
口惜しかろう…… お前達とて……自分の欲望、感情のままに素直に行動していただけなのだから…… 愚かなる人間の欲望……お前達はその犠牲となった。 お前はそれでいいのか。このまま終わっていいのか……? 若き魔族の王よ。今一度、お前に機会をくれてやろう。 目を覚ませ。お前の抱く憎しみを、もう一度思い出せ。 そして、人間達に己の罪を、その愚かさを…… 思い知らせるのだ! デスピサロ ◆n95k6APn4k 月明かりに、手を透かす。 その手は緑の醜悪な怪物の手などではなく、見慣れた自分の手だった。 「生きている……か」 男は一人、ポツリと呟いた。 勇者達の手でとどめを刺され、死んだはずだった自分の身体を見回す。 夜の風に靡く銀の長髪。赤いバンダナ。尖った耳。マントと黒い装束。 美しく整った端正な顔立ち。その表情に差しこむ、黒い影。 月の光という演出も手伝って、その姿は神秘的とすら表現できた。 「いや、死に損なった……と言うべきか」 どこか自嘲気味に自らの運命を皮肉る。 若き魔族の王、デスピサロ。 彼は大切な人を殺され、人間の全てを憎悪した。 遂には禁断の秘術・進化の秘法に手を染め、その力を自らに取り込んだ。 その代償として、記憶や人格、彼を証明する全てが崩壊した。 ヒトという種に対しての、純粋な憎しみだけを残して。 ……そうまでして手にした復讐の力は、今は彼の中から失われていた。 身体は、完全に元の姿へと戻っている。 人格も安定し、記憶も……完全ではないが、ほぼ修復されていた。 進化の秘法による後遺症らしきものも、何もない。 あの勇者達との戦いの傷も、それが夢であったかのように綺麗に消えていた。 「お前の差し金か。オディオとやら」 あの部屋で見た、魔王を名乗っていた人間の姿を思い起こす。 殺し合い。ただそれだけの他愛のない遊戯を行うため、奴は50人以上の者を集めた。 所詮は人間か。こんな馬鹿げた殺人ゲームのために、よくも労力を割ける。 そんな者が魔王を名乗るなど、分不相応にも程がある。 ……最初は、そう思い彼のことを見下していた。 だが、彼の目に灯っていた光。あの黒い輝きが、デスピサロの瞼に強く焼き付いていた。 そう……同じだ。あの男は、自分と同じ感情をその精神に宿している。 憎悪。人間に対する、圧倒的なまでの憎悪。 それが、デスピサロの興味を捉えて離さなかった。 共感。オディオの発する闇が、同じく憎悪を宿すデスピサロにも、不思議と強く理解できた。 「……そうか。そういうことか」 やがてデスピサロは、何かに納得したかのように笑みを浮かべた。 空を見上げる。月は変わらず、光を放ち続けていた。 「お前は思い知らせたいのか。奴らの愚かさを、罪深さを。 奴ら人間自身に、身をもって思い知らせたい……そうだろう、オディオよ!」 空へ向けて叫ぶ。今もどこかで自分達を見ているかもしれない男に向けて。 「……面白い」 彼の笑みはさらに強まる。端正な顔立ちは崩れ、表情を醜悪に歪ませて。 「いいだろう。この茶番……付き合ってやろう」 狂気にも等しい憎悪に表情を歪ませ、口元をつり上げる。 通常の彼であれば、こんな馬鹿げた遊戯など一蹴したであろう。 憎き、滅ぼすべき人間のお遊びの駒になるなど、彼の誇りが許さなかったはずだ。 だが、彼はオディオに興味を抱いた。 あの男にもう一度会ってみたい。同じ人間でありながら、自分に匹敵する…… いや……あるいは自分以上とすら思えるほどの闇を発する、あの男と。 「この地に蔓延る人間どもを排除し……お前のもとに辿り着いて見せよう……!!」 内に秘めた憎悪を発露する。まるで、オディオの放っていた憎しみに呼応するかの如く。 支給された鞄から名簿を取り出すと……デスピサロは自らの魔力で、それを消し飛ばした。 目を通す必要などない。そこに書かれた人間どもは、どの道一人残らず生かすつもりはない。 名簿は瞬く間に灰と化し、やがて自然の中に還る。 「これが、お前達の運命だ……愚かな人間達よ」 自分の為すべきことはわかっている。 ――皆殺しだ。 人間達は一人残らず殺す。奴らと組する輩も、容赦なく消す。 お前達はロザリーを殺した。その罪は、裁かれなければならない。 お前達の罪の重さを、骨の髄まで味わわせてくれる。 死の淵から蘇ったばかりの彼は、気付いていなかった。 あの場所に、自分と同じく召喚された参加者の中に、殺されたはずの大切な人がいたことに。 だが名簿を燃したことで、再びそれを確認することは難しくなった。 いや……例え彼女が傍にいたところで、彼が人間を滅ぼすという意志は、もはや止めることは 不可能だろう。人間達が己の欲望のために、彼女を惨殺したという事実は消えないのだから。 誰も彼を止められる者はいなかった。 そう、ピサロという青年は、もういない。 かつてロザリーの前で見せていたという穏やかな一面など、今の彼からは微塵も感じられない。 いるのは「オディオ」という名の感情にその身を委ねた復讐鬼。 男の名は、デスピサロ。人間を憎み、滅ぼす者。 【E-6 山 一日目 深夜】 【ピサロ@ドラゴンクエストIV 】 [状態]:健康。人間に対する強烈な憎悪 [装備]:なし [道具]:不明支給品1~3個(未確認)、基本支給品一式 [思考] 基本:優勝し、魔王オディオと接触する。 1:皆殺し(特に人間を優先的に) [備考]: ※名簿は確認していません。またロザリーは死んでいると認識しています ※参戦時期は5章最終決戦直後 時系列順で読む BACK△009 遺志を継ぐものNext▼011 夢をもう一度 投下順で読む BACK△009 遺志を継ぐものNext▼011 夢をもう一度 GAME START ピサロ 030 言葉と拳に想いを乗せて ▲
https://w.atwiki.jp/rpgrowa/pages/386.html
パロロワ毒吐き別館 パロロワ企画交流雑談所・毒吐きスレ8 3291氏 アイディー・ウィンチェスター(◆iDqvc5TpTI) 「この一撃で、“救われろ”……ッ!!」 RPGロワに所属する最投下数書き手。 感情的な作風の書き手で、RPGロワ完結遂行部隊『RPGS』の隊員に抜粋されたことをきっかけに、RPGロワを終盤へと引っ張っていく。 クライマックスが目立つ作風とは裏腹に、繋ぎや考察も自由にこなす腕前を持つ。 アイディーが使えるグッズ 【クロスオーバー】 設定、キャラクター、アイテム、技などなど、何でも巧みにクロスできます。 ただ掛け合わせるだけでなく、そこから新しいものを生み出すことにも秀でており、“アクセス”の第一人者とも言えるでしょう。 【050 三人でいたい】 普通の人間で、でも最高なお姉ちゃんのナナミの死亡話です。 ド派手なバトルや勢いで押し切る印象が先に浮かびがちな氏だが、この話のように心に響く話もよく手がけています。 また、RPGロワのメインキャラクターとしてよくゴゴが挙げられますが、そのきっかけとなったのもこの話です。 【131 救い七部作】 問答無用で全てを救う作品です。 全ては全て、その救いは作中だけでなく、この作品を読んだ全ての人にもたらされます。 後々への影響も強いまさに、RPGロワの代表作と言えるでしょう。 リクス・エレニアック(◆6XQgLQ9rNg) 「つまらん……」 駆け出したOP書き手。 上手くて多作でとにかく面白くて、どこまでも頼れる存在で、パーティーの切り込み隊長的存在。 OPの頃から、何かと優秀だったリクスだが、終盤に至ってもかつての自分を超える書き手になるべく、日々レベルアップを続けている。 リクスが使えるグッズ 【オールラウンダー】 RPGロワでも随一の文章力の高さと上手さを活かしてどんな展開・キャラクターをも描き切ります。 読後の余韻がある話を描く点も評判です。 【048 『勇者』の意味、『英雄』の真実】 OPとはまた別の意味でのRPGロワの始まりとも言える作品です。 この作品により問われた、勇者とは何か、英雄とは何かという問が救いへと繋がり、更に導きを呼び起こしました。 今あるRPGロワの流れを形作った一作です。 【097 妖星乱舞,壊れた心に貫く想い】 氏の本領発揮とも言える作品です。 巨悪を巨悪として巨悪のままに書き切ることに定評のある氏ですが、この物語のケフカはそれだけに留まりません。 全編通してどこまでもケフカらしいのに、その最後に、読後なんともいえない余韻を味わうこと間違いなしです。 ラッド・エヴァンス(◆Rd1trDrhhU) (……ただいま) したらば管理人と称えられた、RPGロワ書き手。 特Aランクの書き手ばかりが集まったどこぞへと収容されてしまったのかも知れないが、書き手としての復帰も待たれている。 心理描写に関してはエキスパートで、原作では見せなかった側面の描写や描かれることのなかった心境の掘り下げに長けている。 したらばではお遊び心でエイプリルフールをも盛り上げる、優秀な管理人。 ラッドが使えるグッズ 【タイトル縛り】 後述の代表作名からも分かるように氏はタイトル縛りを行なっています。 終盤へと突入したRPGロワにおいては最早慣れ親しまれた行為であり、誰もが氏の予約の時点で次のタイトルにわくわくしています。 【073 シュウ、『嵐』に託す サンダウン、『花』を見守る】 RPGロワにおいて誰よりも渋い大人たちのかっこ良さを描くことに優れているラッド氏。 そんな氏によるこれ以上なくかっこいい二人のガンマンの死亡話です。 リクス氏により紡がれるケフカとビッキーの最後もこの物語あってこそでした。 【110 シャドウ、『夕陽』に立ち向かう】 大人のかっこ良さに定評のある氏による、娘をおいてきた父親と、父親においていかれた少女の物語です。 大人として、子どもとして、父として、少女として、二人は静かに心を通わせ合うも、そこに襲来する狂皇子。 男は、少女を助けることを選びました。全てを終わらせ、父親は家族の元へと帰ったのです。 セレナ・ライムレス(◆SERENA/7ps) 「二人が教えてくれたこの魔法で……あたしはお前に勝つ!」 中盤前後に活躍した書き手。 長文にて大人数をさばく力と独特のギャグセンスを持っている。 セレナが使えるグッズ 【縦横無尽】 フィールド上、戦場を問わず、数多の登場人物たちをダイナミックに動かして二転三転する先の読めない展開を描き出します。 街一つを使った戦いから、転移アイテムやテレポートを絡めた大集合などなんでもござれです。 【098 FFT三部作】 当時の生存者の半数以上が一堂に会する事となったお話です。 この話によりRPGロワの中盤は東西ニ局面へと別れることとなりました。 物語自体も非常にショッキングなものであり、煙る雨の戦場に似合う不穏な幕開けとなりました。 【126 英雄伝説『黒き魔王』,Running to the straight,組曲の行方】 RPGロワ終盤、遂にストレイボウにより自らとオディオの関係及び過去が明かされました。 この瞬間はRPGロワ住民の誰もが今か今かと待ち望んでいたものであり、氏はその期待に見事応えてくれました。 ストレイボウを許せないニノとの決闘を通して、弱さを抱えながらも強くあろうとする意志の尊さが伝わってくる話でした。 ファルン(◆FRuIDX92ew) お手持ちのスーパーファミコンコントローラーの、Yボタンを押してください。 最近RPGSに復帰した書き手。 『殿堂入り』と称される、2012年のパロロワアワードを震撼させたとんでもなさ過ぎる大作を伴っての復活であった。 ファルンの使えるグッズ 【無名マスター】 ファルンはゲーム知識に秀でた書き手ですが、更にはドラクエ主人公を始めとした所謂無名キャラのキャラ付けに秀でています。 原作では無言無個性なキャラクターや、セリフが10にも満たないキャラクターでも、彼の手にかかれば違和感なく確固たる一人の人間となるのです。 【003 Body Language】 RPGロワきっての名コンビ脳筋コンビ誕生秘話にして、後の脳筋トリオへとも発展していく物語です。 まさしく、Body Language。拳と拳でマッシュと日勝が語り合います。 対主催二人による全力の手合わせという脳筋な展開は、しかしだからこそ暑苦しくも爽やかで一見の価値ありです。 【146 一万メートルの景色】 全てを捨てて遙かなる高みへと上り詰めたセッツァーと、全てを抱え彼と同じ空を目指すゴゴの決着の物語です。とにかく読んでください。 前話にて描かれた圧倒さを一切下げることなく、むしろカンストさえさせて描ききったセッツァーの凄まじさは絶望的の一言。 セッツァーとゴゴというラッドが生み出したオリジナルの関係を、原作へと着地させ昇華した手腕もお見事でした。 ダブリュクル・アーミティッジ(◆wqJoVoH16Y) 「――――守るよ。この力で、全てを」 RPGSの特別顧問で終盤参戦の隠し追加書き手。 長文を駆使してのド派手な展開もさることながら、真の強さはフラグ管理の巧みさと状況構築能力にある。 ダブリュクルの使えるグッズ 【クライマックス繋ぎ】 ダブリュクルは10部作を二度も投下したりしていますが、真に恐るべきことは、そのどちらもクライマックスでありつつも繋ぎだという点です。 盤上を整えるのもひっくり返すのも自在な氏ですが、それ故に自身の起こした事態がどう収まるのかを仲間たちに期待しているのかもしれません。 【136 世界最期の陽】 状況展開に定評のある氏ですが、想いと想いのぶつかり合いなど、理屈だけでなく感情に訴える描写でも強烈な力を発揮します。 ロザリーを愛しているからこそ、彼女の友であってくれたニノに、憎悪ではなく感謝を以って刃を突き刺すピサロ。 パロロワの常連でありよく話題になるピサロですが、この話で描かれた彼は、ピサロというキャラクターの一つの極地といっても過言ではないでしょう。 【142:導き10部作】 すべてを賭けて力を手にしたジョウイの全てを、氏の全てを賭けて書ききった物語です。 救いでは足りぬと“導き”を掲げたジョウイの心情や策略、超絶クロスオーバー魔剣が怒涛に継ぐ怒涛で描かれています。 十分割という長文でありながらも、余分なものが一切無く、これまでの全ての物語をリレーしてRPGロワを終わりに向けて導いた一作です。
https://w.atwiki.jp/dqmb/pages/958.html
重複ページの為削除。